刺激的なスパイス
朝日が山々を照らし始める頃、悠真たちは野営の片付けをしていた。
テントを畳む悠真の隣で、ツバキは慣れた手つきで朝食の準備を進めている。
「すみません。任せてしまって。」
悠真が申し訳なさそうに言うと、ツバキは小さく笑った。
「気にしないでください。習慣ですから。」
「さすが、一児の母ですね。」
「ふふっ。そういうことです。」
フィルは焼きたてのパンを頬張りながら、嬉しそうに笑った。
「ツバキさんの料理、おいしいです~。」
穏やかな朝の時間が過ぎ、三人は山道を目指し草原を進み始めた。
目指すのは、ダークエルフの国。
険しい山を越えれば、ツバキの故郷へ続く道が見えてくるという。
昼頃、一行は山の中腹へとたどり着いていた。
その時だった。
地面が大きく揺れた。
ドドドドドッ――。
「何だ!?」
悠真が剣を抜く。
木々の間から現れたのは、巨大なイノシシのような魔物だった。
全身を岩のような甲殻で覆い、鋭い牙を持っている。
____
〈クエスト発生〉
脅威を取り除き高級食材を手に入れろ
報酬:????
____
(え?食材ー?!)
「ロックボアです。」
ツバキが静かに告げた。
「中級魔物ですね。」
「中級!?」
「大丈夫ですよ。」
そう言うと、ツバキは小さな瓶を二本取り出した。
「これは?」
「旅用に精製した薬です。」
「薬?」
「身体能力向上、魔力上昇の効果があります。」
「すごっ!?」
悠真が目を丸くする。
フィルも驚いていた。
「そんなものまで作れるんですか!?」
「ええ。」
ツバキは微笑んだ。
「さあ、どうぞ。」
二人は瓶の蓋を開け、一気に飲み干した。
「……甘いです~。」
フィルがぽつりと言う。
悠真は思わず吹き出した。
「そこなのか。」
「だって、大事なことですよ?」
その瞬間だった。
ロックボアが大きく咆哮した。
ツバキは地面へ手をかざす。
「(土錬成)」
ゴゴゴゴゴッ――。
ロックボアの足元が泥のように柔らかくなり、動きが鈍る。
「今です!」
「はい!」
フィルの風魔法が放たれる。
「ウィンドスラッシュ!」
風の刃がロックボアを切り裂いた。
魔物が大きくよろめく。
「え!?」
フィルは驚いた。
悠真は剣を構えた。
「アースエンチャント!」
刀身へ土が集まり、剣がみるみる伸びていく。
三メートルほどの巨大な刃が姿を現した。
「なっ!?」
フィルが目を見開く。
悠真自身も驚いていた。
「長い!?」
しかし、不思議と重さは感じない。
いや、正確には重い。
だが、振れるのだ。
「いくぞ!」
巨大な刃が振り下ろされる。
轟音とともにロックボアは倒れ伏した。
「やりました!」
フィルが飛び上がる。
ツバキも穏やかに微笑んだ。
「お二人とも、お見事です。」
「いやいやいやいや!」
悠真は慌てて首を振る。
「どう考えてもツバキさんのおかげでしょう!」
「悠真さん。」
「あの戦い方って?」
「え?」
悠真は不思議そうに顔を傾ける。
「魔法を武器に付与するなんて聞いた事ないんですが?」
悠真か答えようとした時。
「悠真さんは凄いんです。」
フィルがすかさず答える。
「そして、悠真さんに魔法を教えたのは私です。」
フィルは誇らしげに言う。
その時だった。
ドゴォォォォン!
突然、一頭の巨大な影が飛び出した。
しかも、先ほどのロックボアを吹き飛ばしながら突進してきたのである。
「ええっ!?」
「まだいたんですか!?」
悠真とフィルが叫ぶ。
しかし、ツバキだけは冷静だった。
「やはり来ましたか。」
ツバキが静かにつぶやく。
「ロックボアクイーンです。」
「クイーン?」
「魔物はクイーンが群れのボスなのです。」
「そうなの!?」
「そういうものです。」
悠真とフィルは顔を見合わせた。
「……勉強になります。」
「なりますね~。」
クイーンはそのまま突進してきた。
「魔力障壁!」
バキィッ!
「うそだろ!?」
魔力の壁は、一瞬で砕け散った。
「悠真さん!」
悠真は剣を地面へ突き立てる。
ギギギギギッ――。
ロックボアクイーンの突進が止まる。
フィルは杖を構えた。
「ツバキさん! クイーンの動きを止めてください!」
「分かりました。」
ツバキは近くの木に手を触れた。
「(錬成)」
地面から無数の蔓が伸び、クイーンの四肢へ絡みついた。
「長くは持ちません!」
「大丈夫です!」
フィルは静かに目を閉じた。
「できました。」
「悠真さん、離れてください!」
悠真は大きく飛び退く。
フィルは杖を天へ掲げた。
「(アイスロック)」
無数の氷の塊が宙へ浮かび上がる。
「(ウィンドウォール)」
次の瞬間、暴風が吹き荒れた。
氷の塊が竜巻に巻き込まれ、猛烈な勢いでクイーンへ襲いかかる。
「アイスバースト!」
轟音が山々へ響き渡った。
ツバキが目を見開く。
「多重詠唱……!?」
激しい爆風が吹き抜ける。
やがて、土煙が晴れた。
そこには倒れたロックボアクイーンの姿があった。
⸻
「やりましたー!」
フィルが飛び跳ねた。
「ツバキさんの薬のおかげですー!」
「ああ。」
悠真も頷く。
「助かったよ。」
「こちらこそ。」
ツバキは微笑んだ。
「お二人とも、お疲れさまでした。」
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〈クエスト達成〉
脅威を取り除き高級食材手に入れろ
レベルアップ
Lv.24 → Lv.28
報酬:「体術」
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◇
夕暮れ。
三人は野営の準備を始めていた。
ツバキは魔物を解体し、悠真はテントを設営する。
フィルは火の番だ。
「わたしは、これくらいしかできませんから。」
「それと、味見係です!」
胸を張るフィルに、悠真とツバキは笑った。
やがて、悠真は小瓶を取り出した。
「悠真さん、それは何ですか?」
「おいしくなる魔法の粉かな。」
「魔法?」
「まあ、そんなところ。」
悠真は笑いながら、魔物の肉へスパイスを振りかけていく。
「楽しみにしていてください。」
香ばしい匂いが漂い始めた。
すると、フィルがふらふらと近づいてくる。
「いい匂いですね~。」
「だろ?」
「ええ。とても。」
ツバキも目を細めた。
悠真は大きく頷く。
「完成!」
そして、胸を張って宣言した。
「ロックボアクイーンの特製スパイス焼きだ!」
三人は顔を見合わせる。
「いただきます。」
ツバキは一口食べると、少し驚いた顔をした。
「これは……おいしいですね。」
「だろ?」
「ええ。」
フィルも嬉しそうに頬張っていた。
「最高です~。」
悠真は小さな容器を取り出した。
「それと、これをかけてみて。」
「何ですか?」
「魔法のソース。」
悠真はステーキ用のガーリックソースを渡した。
ツバキとフィルは顔を見合わせる。
恐る恐る口へ運んだ。
次の瞬間――。
「……。」
「……。」
二人は言葉を失っていた。
「どうだ?」
「これは……。」
「反則ですー!」
悠真は思わず笑った。
そして、ツバキは静かに口を開いた。
「魔物は強くなればなるほど、おいしくなるんですよ。」
「本当ですか!?」
「ええ。」
「ちなみに、一番おいしいのは?」
「ドラゴンですね。」
悠真の目が輝いた。
「決めた。」
「何をです?」
「いつかドラゴンを倒して、肉を食べる。」
「ええっ!?」
フィルが目を丸くする。
「ドラゴンのお肉なんて、滅多に手に入りませんよ! 王族や貴族くらいしか食べられないんですから!」
「いいんだよ。」
悠真は笑った。
「目標があったほうが、旅は楽しいだろう?」
フィルとツバキは顔を見合わせる。
そして、小さく笑った。
山の夜は、今日も静かに更けていった。




