変わり始めた日常
午前一時十三分。
「……本当に、一時間しか経ってない。」
神崎悠真は、枕元の時計を見つめたまま立ち尽くしていた。
夢世界では朝から夕方まで過ごした。
それなのに現実では、わずか一時間。
「夢……じゃないのか?」
胸の鼓動は、まだ速い。
ベッドへ腰を下ろし、机の引き出しから一冊のメモ帳を取り出した。
思いつくままに書き込んでいく。
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夢世界調査ノート
・現実約1時間=夢世界約1日?
・夢世界へは光に包まれて現れる。
・帰る時も光に包まれる。
・鐘の音は自分にしか聞こえない?
・目の前に映る文字は自分にしか見えない。
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「……分からないことばかりだな。」
そうつぶやき、悠真は再びベッドに横になった。
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朝。
目覚まし時計が鳴る。
「……眠い。」
結局、夢の事が気になり眠れなかった。
身支度を整え、いつものように会社へ向かう。
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機械メーカー『東栄マシナリー』。
「おはよう!」
元気な声とともに肩を叩かれた。
振り返ると、高橋蓮が笑っている。
「なんだか今日はボーっとしてるな。」
「ちょっと寝不足でさ。」
「珍しいじゃん。」
悠真は曖昧に笑う。
夢世界のことは、誰にも話していない。
話したところで、信じてもらえるとは思えなかった。
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午前の作業。
大型フレームを持ち上げる工程。
いつもなら二人で運ぶ部品だ。
悠真は何気なく持ち上げた。
「……軽い。」
思わず力を入れすぎる。
部品がふわりと浮いた。
「あっ。」
慌てて力を抜く。
幸い、周囲は誰にも気付いていない。
(危なかった……。)
レベルアップ。
夢の中の文字が頭をよぎる。
偶然では説明できない。
確実に、自分の体は変わっていた。
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昼休み。
食堂で蓮と向かい合う。
「悠真。」
「ん?」
「最近、なんか変わった?」
「え?」
「うまく言えないけどさ。前より余裕があるっていうか。」
「気のせいだよ。」
「そうか?」
蓮は首をかしげる。
悠真は笑ってごまかした。
本当のことは言えない。
言えるはずがない。
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仕事を終え、帰宅する。
夕食を済ませると、真っ先に机へ向かった。
夢世界調査ノートを開く。
今日分かったことを書き足す。
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・現実でも身体能力が少し上がっている。
・力加減に注意。
・夢世界の影響は現実にも残る。
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ペンを置き、静かに息を吐く。
「少しずつだけど……。」
確実に世界のルールが見えてきている。
それでも、分からないことの方が多い。
なぜ自分だけなのか。
あの世界は何なのか。
鐘の意味。
光の意味。
答えは、向こうにしかない気がした。
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時計を見る。
午後十一時。
「今日も……行けるかな。」
期待と少しの緊張を胸に、ベッドへ横になる。
目を閉じる。
静かな部屋。
やがて意識が沈んでいく。
その時だった。
──ゴーン……
遠くから、あの鐘の音が聞こえた。
悠真は小さく笑う。
「……また会えた。」
柔らかな光が、ゆっくりと彼を包み込んでいく。
その先で待っているものを、悠真はまだ知らなかった。




