妖精の友
第29話「妖精の友」
柔らかな風が森を吹き抜けていく。
精霊たちは嬉しそうに空を舞い、花々は美しく咲き誇っていた。
『ありがとうございました。』
『森を救ってくれて、ありがとうございます。』
小さな精霊たちが悠真たちの周りを飛び回る。
フィルは嬉しそうに笑った。
「元気になったみたいですね。」
「ああ。」
リシェルも穏やかな表情を浮かべている。
◇
『お礼をしたいのです。』
そう言うと、精霊たちは木の実や果物を運び始めた。
「これは……。」
「昼食みたいですね。」
フィルが目を輝かせる。
大きな葉が皿の代わりになり、色鮮やかな果実が並べられていく。
『どうぞ。』
「いただきます。」
三人は笑顔で手を合わせた。
「甘いですね。」
「本当だ。」
リシェルも驚いたように目を見開く。
「初めて食べる味です。」
その言葉に、精霊たちは嬉しそうに笑った。
◇
食事が終わると、一際大きな光が悠真の前へ現れた。
『あなたは、わたしたちの友です。』
光の中から、小さな銀色の鈴が現れる。
『どうか受け取ってください。』
「これは?」
『妖精の友の証です。』
『世界中の妖精の森で、あなたを友として迎えてくれるでしょう。』
悠真は鈴を受け取った。
すると、鈴は優しい光を放つ。
「ありがとう。」
『こちらこそ。』
◇
妖精たちに別れを告げ、三人は再び旅を始めた。
やがて、石造りの門が見えてくる。
「着きました。」
「次の中継地点か。」
街の入口には、見慣れた紋章が掲げられていた。
「王都騎士団ですね。」
リシェルが小さく頷く。
「どうやら先に到着していたようです。」
すると、一人の女性がこちらへ駆け寄ってきた。
「リシェル隊長!」
茶色のショートヘアを揺らしながら、少女は勢いよく敬礼する。
「ミリア。」
「ご無事で何よりであります!」
「ええ。」
少女――ミリアは、ぱっと悠真へ視線を向けた。
「こちらの方が悠真さんでありますか!」
「え?」
「隊長からお話は聞いているであります!」
リシェルが少し慌てた表情を見せる。
「ミリア。」
「おっと、失礼したであります。」
今度はフィルへ顔を向ける。
「はじめましてであります!」
「はじめまして。」
「僕はミリアであります!」
「私はフィルです。」
「おおっ!」
「?」
「同じくらいの年頃であります!」
フィルはくすりと笑った。
「そうですね。」
◇
夕方。
四人は街の食堂へ集まっていた。
「盗賊の足取りは、まだつかめていないのであります。」
「そうですか。」
「ですが、目撃情報は増えているであります。」
リシェルは真剣な表情で頷いた。
「油断はできませんね。」
すると、ミリアが悠真を見つめた。
「ところで、その防具は少し心もとないであります。」
「そうか?」
「そうであります!」
フィルも頷いた。
「私もそう思います。」
悠真は苦笑した。
◇
食事を終えると、ミリアが突然立ち上がった。
「決めたであります!」
「何をですか?」
「隊長と悠真さんは、防具を見てきてください!」
「え?」
「私とフィルさんは街を見て回るであります!」
フィルも笑顔で頷いた。
「そうしましょう。」
「ちょっと待ってくれ。」
「駄目であります。」
「駄目です。」
二人は息ぴったりだった。
◇
防具店の中には、剣や鎧が並んでいた。
リシェルは真剣な表情で棚を見つめている。
「こちらはどうでしょうか。」
「軽そうだな。」
「悠真には、こちらのほうが似合うと思います。」
「そうか?」
「はい。」
リシェルは少しだけ微笑んだ。
「どうしてそう思ったんだ?」
「え?」
「いや、気になってな。」
リシェルは少し考え込んだ。
「動きやすいほうが、あなたらしいと思います。」
「よくお似合いですよ。」
「わかった。ありがとう。」
◇
宿へ向かう夜道。
街灯の明かりが石畳を照らしていた。
「今日は楽しかったな。」
「ええ。」
リシェルは優しく微笑む。
「ミリアも元気そうでした。」
「ああ。」
少しだけ沈黙が流れる。
「……悠真。」
「ん?」
「また、妖精の森へ行きたいですか?」
悠真は夜空を見上げた。
「妖精の森だけじゃない。」
「え?」
「この世界を旅して、いろいろな場所を見て回るつもりだよ。」
リシェルは静かに耳を傾ける。
「森も、湖も、山も、海も、いろんな人たち。」
「そうですね。」
「それで、いいと思った場所があったら――」
悠真は少しだけ笑った。
「リシェルにも見せたい。」
リシェルは目を見開いた。
「わたしに、ですか?」
「ああ。」
「でも、わたしは騎士ですから。」
「休暇くらいあるんだろ?」
「ありますが……。」
「だったら、そのときに行こう。」
リシェルはしばらく黙り込んだ。
「どうした?」
「……いえ。」
そして、優しく微笑んだ。
「約束ですよ。」
「約束だ。」
◇
宿へ到着する。
「それでは、おやすみなさい。」
「ああ、おやすみ。」
リシェルは部屋へ入ろうとして、ふと立ち止まった。
「悠真。」
「どうした?」
「……今日は、ありがとうございました。」
「俺は何もしてないぞ。」
「そんなことはありません。」
リシェルは嬉しそうに微笑んだ。
「また、明日もよろしくお願いします。」
「ああ。」
扉が静かに閉まる。
その向こうで、リシェルはそっと胸に手を当てていた。
そして、悠真は最後まで、その意味に気づかなかった。




