妖精の森
朝日が草原を照らしていた。
悠真たちは野営の片づけを終え、朝食を済ませていた。
「今日もいい天気ですね。」
フィルが空を見上げる。
「ああ。」
悠真は頷いた。
すると、フィルが何かを思い出したように声を上げた。
「そういえば、この先に妖精の森があるんです。」
「妖精の森?」
「はい。街道から少し離れた場所なんですけど、とても神秘的な場所なんですよ。」
「旅人がよく立ち寄る名所なんです。」
リシェルも頷いた。
「へえ。」
悠真の目が輝く。
「行こう。」
「即決ですね。」
◇
しばらく進むと、深い森が見えてきた。
木漏れ日が降り注ぎ、小川が静かな音を立てて流れている。
「きれいですね。」
フィルが微笑んだ。
しかし、その表情はすぐに曇った。
「……おかしいです。」
「何がだ?」
「精霊がいません。」
リシェルも辺りを見回す。
「確かに静かすぎます。」
すると、小さな光が三人の前へ現れた。
『助けてください。』
『私たちの住処の水辺に魔物が現れて奪ったのです。』
『仲間たちも、追い払われてしまいました。』
その瞬間――。
⸻
【クエスト発生】
精霊たちを救え。
報酬:???
⸻
悠真は剣の柄を握った。
「行こう。」
◇
巨大な水しぶきが上がる。
長い胴体。
鋭い牙。
青黒い鱗。
「レイクサーペント……!」
フィルが杖を構えた。
「アイスアロー!」
無数の氷の矢が放たれる。
「はあっ!」
リシェルが飛び出した。
白銀の剣が、硬い鱗を切り裂く。
「ウィンドエンチャント。」
悠真の剣が淡い緑色の光を帯びる。
「ウィンドスラッシュ!」
風の刃がレイクサーペントを切り裂いた。
巨体が大きく揺れる。
「やった!」
しかし――。
次の瞬間、巨大な尾が振り抜かれた。
「危ない!」
三人は吹き飛ばされた。
◇
レイクサーペントの視線が、リシェルへ向けられる。
「しまった!」
フィルは杖を構えた。
だが、距離が近すぎる。
魔法を放てば、リシェルまで巻き込んでしまう。
悠真は地面を蹴った。
「間に合え!」
リシェルを抱き寄せ、そのまま地面を転がる。
鋭い牙が、目の前を通り過ぎた。
「悠真……。」
「大丈夫か?」
「ええ。」
そう答えたリシェルの腕には、浅い傷が残っていた。
◇
レイクサーペントが再び牙をむく。
悠真は剣を構えた。
「フィル!」
「はい!」
「ゲイルバースト!」
猛烈な風がレイクサーペントを吹き飛ばす。
「今です!」
悠真は剣を握り直した。
「アイスエンチャント。」
白い冷気が刀身を包み込む。
「これで終わりだ!」
鋭い一撃が放たれる。
レイクサーペントは大きく揺れ、そのまま静かに崩れ落ちた。
◇
「ヒール。」
淡い光がリシェルを包み込む。
「ありがとうございます。」
悠真は安堵の息を吐いた。
「本当に大丈夫か?」
「ええ。」
リシェルは優しく微笑んだ。
◇
悠真は辺りを見回した。
「ひどいな……。」
美しかった水辺は荒れ果てていた。
池の水も濁っている。
「《クリーン》」
しかし、水の濁りは消えない。
「駄目か。」
フィルが前へ出た。
「わたしがやります。」
杖を池へ向ける。
「ピュリフィケーション。」
柔らかな光が池全体を包み込んだ。
すると、濁っていた水は透明さを取り戻し、水面が美しく輝き始めた。
◇
無数の光が森の中へ舞い戻ってくる。
精霊たちだった。
花が咲き、小川が輝き、森全体が優しい光に包まれていく。
「きれいですね。」
「ああ。」
悠真の隣へ、リシェルが静かに並んだ。
「悠真。」
「ん?」
「助けてくれて、ありがとうございました。」
「当然だろ。」
リシェルは少しだけ微笑んだ。
「それに、わたしはあなたを守る立場でもありたいですから。」
悠真は驚いたように目を瞬かせる。
「……ああ。頼りにしてる。」
「はい。」
すると、少し離れた場所からフィルの声が聞こえた。
「仲がいいですね。」
二人は同時に振り返る。
「え?」
「え?」
フィルはにっこりと笑った。
「何でもありません。」
リシェルは慌てて視線をそらした。
「フィ、フィル!」
「はいはい。」
フィルは楽しそうに微笑んだ。
◇
そのとき、悠真の目の前に文字が浮かび上がる。
⸻
【クエスト達成】
精霊たちを救え。
レベルアップ
Lv.20 → Lv.24
報酬:《魔力障壁》
【新たなスキルを獲得しました】
《魔力障壁》
魔力によって障壁を展開します。
障壁の強度は、使用者の魔力量によって変化します。
⸻
悠真は静かに文字を見つめた。
(もし、この力が少しでも早く使えていたら……。)
(リシェルは怪我をしなくて済んだのかもしれないな。)
「どうかしましたか?」
リシェルが尋ねる。
「いや。」
悠真は小さく首を振った。
すると、リシェルが優しく笑った。
「そんな顔をしないでください。」
「ん?」
「わたしは騎士です。」
「……ああ。」
「それに、助けてもらいましたから。」
悠真は苦笑する。
「そうだな。」
風が吹く。
精霊たちの笑い声が、静かな森の中へ響いていた。




