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夢世界レベルアップ ~眠るたび異世界、目覚めるたび最強~  作者: 大雄山
第3章「旅編」

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揺らぎ

午前六時。


 目覚まし時計の音で、悠真はゆっくりと目を覚ました。


「……朝か。」


 天井を見上げたまま、小さく息を吐く。


 昨夜まで、悠真は夢世界で七日間を過ごしていた。


 王都を歩き、フィルと話し、リシェルと食卓を囲んだ。


 それなのに、現実ではたった一日しか経っていない。


「どっちが夢で、どっちが現実なんだろうな……。」


 そんな言葉が自然と漏れた。


 夢世界は確かに存在している。


 空気の匂いも、風の感触も、人々の笑顔も、本物だった。


 だが、こうして自分の部屋に戻ってくると、今度は現実のほうが夢のようにも思えてくる。


「……まあ、考えても仕方ないか。」


 悠真はベッドから立ち上がった。


「今日からまた仕事だな。」



 東栄マシナリー。


 朝のミーティングを終え、悠真はいつもの作業場へ向かった。


「よし。」


 今日の仕事は、部品の組み立て作業だった。


 バーナーを手に取り、着火しようとする。


「あれ?」


 ライターが見当たらない。


 工具箱の中を探す。


 作業台の下を見る。


 それでも見つからない。


「おかしいな……。」


 その瞬間だった。


 悠真は無意識に指先を動かした。


 ボッ。


 小さな炎が灯る。


「……えっ?」


 悠真は固まった。


 目の前では、バーナーの先端が静かに燃えている。


「うそだろ……。」


 慌てて周囲を見渡す。


 誰も気づいていない。


「ふぅ……。」


 悠真は胸をなで下ろした。


「気をつけないとな。」


 どうやら、夢世界の力は現実でも使えるらしい。



 昼休み。


「神崎、今日は食堂か?」


 声をかけてきたのは、高橋蓮だった。


「ああ。」


「じゃあ、一緒に行こうぜ。」


 二人が席へ向かうと、窓際の席に見慣れた姿があった。


「高梨さん。」


 黒髪の女性が顔を上げる。


「こんにちは、神崎くん。」


 高梨美月。


 設計部の社員であり、蓮の同期でもある。


 仕事中は冷静で、誰に対しても淡々としているが、その仕事ぶりから社内の信頼は厚かった。


「珍しいな。」


「たまには気分転換よ。」


 美月はコーヒーを口に運ぶ。


「それより、神崎くん。」


「ん?」


「最近、何か変わった?」


「そうか?」


「ええ。」


「前より雰囲気が変わった気がするわ。」


 蓮も頷く。


「俺も思ってた。」


「そうか?」


「そうよ。」


「そうだよ。」


 悠真は腕を組んだ。


「うーん……。」


 しばらく考え込む。


「キャンプ道具が増えたくらいかな。」


「……はぁ。」


「……はぁ。」


 二人は同時にため息をついた。


「何だよ。」


「何でもないわ。」


「何でもない。」


 悠真は首を傾げた。


 理由はまったく分からなかった。



 午後。


 悠真たちは、クレーンを使って大型の部品を運んでいた。


 その時だった。


 空気が震えた。


 ビリッ――。


「……っ!」


 悠真は目を見開いた。


 この感覚を知っている。


 湖で感じたものと同じだった。


 だが、前回よりも明らかに強い。


「危ない!」


 誰かが叫ぶ。


 ガシャンッ!


 金属音が工場内に響き渡った。


 フックが外れたのだ。


 吊り上げられていた部品が、後輩へ向かって落下していく。


「しまった!」


 考えるよりも先に、体が動いていた。


 瞬間。


 景色が流れた。


 悠真は後輩の腕をつかみ、その場から飛び退く。


 次の瞬間――。


 ドォォォン!


 激しい音とともに、巨大な部品が床へ激突した。


「だ、大丈夫ですか!?」


 後輩が目を丸くする。


「えっ……?」


 周囲にいた人々も呆然としていた。


「あれ……?」


「神崎さん、いつの間に……?」


 誰にも見えていなかった。


 あまりにも速すぎたのだ。


 悠真は静かに息を吐いた。


「間に合ってよかった。」



 夜。


 三人は居酒屋で食事をしていた。


「いやぁ、本当に驚いたよ。」


 蓮がジョッキを置く。


「後輩に怪我がなくてよかったわ。」


 美月も小さく頷いた。


「そうだな。」


 三人は仕事の話をし、昔話で盛り上がった。


 気づけば、ずいぶん長い時間が過ぎていた。



 帰り道。


 悠真は、大きなアウトドアショップへ立ち寄った。


「旅に出るなら必要だよな。」


 テント。


 ランタン。


 ロープ。


 調理器具。


 小型のナイフ。


 さまざまな道具を買いそろえていく。


 店を出た頃には、大きな荷物になっていた。


「重い……。」


 悠真は人気のない路地へ入った。


「悪い。」


 そうつぶやき、アイテムボックスを開く。


 次々と荷物が消えていく。


「便利だな。」


 そう笑った、その時だった。


 暗闇の向こうで、何かが揺れた。


 まるで、水面に石を投げ入れたように、空間が波打っている。


「……ん?」


 一瞬だけ、淡い光が漏れた。


「何だ、今の……。」


 しかし、次の瞬間には消えていた。


 悠真は首を傾げる。


「看板の光か?」


 そう考えることにして、その場を後にした。


 もちろん、この時の悠真は知らなかった。


 この小さな揺らぎが、二つの世界をつなぐ裂け目になろうとしていることを。


 そして、それはもうすぐ現実世界に大きな変化をもたらすことを。


 まだ、誰も知らなかった。


挿絵(By みてみん)

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