王都周辺の異変
朝日が王都を照らしていた。
悠真はいつものように冒険者ギルドへ向かい、入口でフィルと合流した。
「おはようございます!」
「おはよう。」
「今日はどんな依頼にしますか?」
「そうだな……。」
悠真は依頼書の並ぶ掲示板へ視線を向けた。
採取依頼、護衛依頼、討伐依頼――。
その中に、一枚の依頼書を見つける。
「王都周辺の調査か。」
「これにしよう。」
フィルも頷いた。
「よさそうですね。」
その瞬間だった。
⸻
【クエスト発生】
王都周辺の異変を調べろ。
報酬:???
⸻
(またか……。)
悠真は心の中で苦笑した。
すると、その背後から聞き慣れた声が響く。
「悠真。」
「リシェル?」
振り返ると、白銀の鎧を身にまとったリシェルが立っていた。
「どうしたんだ?」
「いえ、その……。」
リシェルは少しだけ視線を泳がせた。
本当は、自分でも分からなかった。
朝から、どうにも落ち着かなかった。
気づけば、ここへ来ていたのだ。
そして、何気なく依頼書へ視線を向ける。
『王都周辺の調査』
(……あ。)
次の瞬間、リシェルは真顔になった。
「騎士団の任務と調査地域が重なっています。」
「そうなのか?」
「はい。」
ほんの数秒前に思いついたとは思えないほど、堂々とした口調だった。
「ですので、私も同行します。」
「そういうことなら助かるよ。」
「はい。」
フィルも嬉しそうに笑った。
「よろしくお願いします!」
◇
三人は王都の外へ出た。
森へ入ると、すぐに気配察知が反応する。
「来る。」
「え?」
次の瞬間、草むらからウルフが飛び出した。
「ガルルルルッ!」
「フィル!」
「はい!」
フィルは杖を構える。
「――ウィンド!」
風の刃が放たれ、ウルフを吹き飛ばした。
「すごいな。」
「まだまだです!」
そこへ、別の一匹が飛びかかる。
「はっ!」
リシェルの剣が銀色の軌跡を描く。
一撃だった。
「さすがだな。」
「当然です。」
そう言いながらも、リシェルは少し嬉しそうだった。
◇
しかし、異変はすぐに現れた。
「多いですね。」
フィルが眉をひそめる。
「ああ。」
悠真も頷いた。
「ウルフの数が多すぎる。」
「こんなことは珍しいんですか?」
「ええ。」
リシェルの表情が険しくなる。
「少なくとも、私は聞いたことがありません。」
その時だった。
ドォォンッ!
森の奥から大きな音が響いた。
三人は顔を見合わせる。
「行こう。」
◇
そこにいたのは、巨大な蜥蜴だった。
全身を岩のような鱗で覆われた魔物。
「アースリザード……。」
リシェルが小さく息をのむ。
「知ってるのか?」
「はい。」
「ですが、本来なら王都の近くには現れません。」
アースリザードは大きく咆哮した。
「グルルルルルッ!」
「来ます!」
◇
リシェルが斬り込む。
「はっ!」
しかし――。
キィン!
剣は硬い鱗に弾かれた。
「硬い……!」
フィルも杖を構える。
「――ウィンド!」
風の刃が飛ぶ。
鱗がわずかに削れた。
「効いてる!」
だが、決定打にはならない。
(どうする……。)
悠真は剣を握り直した。
そして、ふと思い出す。
(剣と魔法なら……。)
「――フレイ。」
炎が剣へ吸い込まれていく。
赤い炎が刃を包み込んだ。
「なっ……!?」
リシェルが目を見開く。
「悠真、なんだそれは……!」
「昨日、試してみたんだ。」
「昨日……?」
「夕食の時に話していただろ?」
リシェルは固まった。
(聞いていたはずです……。)
(でも、その時の私は……。)
「フィル、本当か?」
「は、はい!」
フィルは勢いよく頷いた。
「私も見ました!」
「しかも――。」
フィルは興奮したように続ける。
「そんな使い方、見たことも聞いたこともありません!」
◇
「行くぞ!」
「はい!」
「ええ!」
悠真とリシェルが左右へ分かれる。
炎をまとった剣が鱗を砕く。
白銀の剣が傷口を広げる。
そして――。
「フィル!」
「はい!」
フィルは杖を握り締めた。
「――フレイ!」
杖の先に生まれた小さな炎が、一直線に飛んでいく。
それは傷口へ吸い込まれるように命中した。
次の瞬間――。
ドォォォンッ!
アースリザードが大きく咆哮する。
そして、その巨体はゆっくりと地面へ崩れ落ちた。
「や、やりました……。」
フィルは驚いたように目を見開いた。
「やったな。」
「はい!」
リシェルも優しく微笑んだ。
「お見事でした。」
フィルは少し照れくさそうに笑った。
◇
夕方。
三人はギルドへ戻った。
「アースリザードですって!?」
受付嬢が声を上げる。
「本当に倒したんですか!?」
「ああ。」
悠真はアイテムボックスを開いた。
巨大な魔物が姿を現す。
「なっ!?」
「本物だ!」
「どうして王都の近くに……!?」
ギルド中が騒然となった。
すると、一人の男が姿を現した。
「騒がしいな。」
白髪交じりの大男だった。
鋭い眼光が三人を見つめる。
「詳しい話を聞かせてもらおう。」
◇
別室。
三人は事情を説明した。
「なるほど。」
ギルドマスターは腕を組む。
「妙だな。」
「何か知っているんですか?」
リシェルが尋ねる。
「いや、まだ分からん。」
ギルドマスターは首を振った。
「だが、異変が起きていることだけは確かだ。」
そして、悠真へ視線を向けた。
「神崎悠真。」
「はい。」
「FランクからDランクへ昇格だ。」
「えっ?」
「フィル。」
「は、はい!」
「お前もDランクだ。」
「ほ、本当ですか!?」
フィルは飛び上がって喜んだ。
「リシェルは?」
「私は騎士団ですので。」
「そうか。」
ギルドマスターは苦笑した。
その時だった。
⸻
【クエスト達成】
王都周辺の異変を調べろ。
【報酬】
《魔力操作》を獲得しました。
レベルアップ
Lv.12 → Lv.20
⸻
悠真の目の前に、淡い光が浮かび上がった。
「……またか。」
慣れたはずなのに、やはり不思議な感覚だった。
レベルが上がったことは分かる。
だが、それだけだ。
剣がどれほど速く振れるようになったのか。
魔力がどれほど増えたのか。
そんなことは何ひとつ分からない。
分かるのは、身体の奥から少しだけ力が湧き上がってくることだけだった。
「魔力操作……?」
悠真は、浮かび上がった文字を見つめた。
魔力を扱う技術なのだろうか。
詳しいことは分からない。
だが、不思議と嫌な気はしなかった。
まるで誰かが、
「次の段階へ進む準備が整いました。」
そう告げているような気がしたからだった。
◇
「疲れましたね。」
「そうだな。」
「少し休んでいきませんか?」
リシェルが指さした先には、王都の公共浴場があった。
◇
「生き返る……。」
悠真は湯船に浸かりながら、そのまま眠っていた。
◇
一方、女湯では――。
「……。」
「……。」
リシェルとフィルが向かい合っていた。
リシェル(おおきい……。)
フィル(きれいですね……。)
二人はそれぞれ、まったく違うことを考えていた。
もちろん、そのことを本人たちは知らない。




