魔法の使い方
朝日が王都の街並みを照らしていた。
悠真は冒険者ギルドへ向かい、その入り口でフィルと合流した。
「おはようございます!」
「おはよう、フィル。」
フィルは白い魔導書を胸に抱え、嬉しそうに笑った。
「今日は魔法の練習の日ですね!」
「ああ。でも、せっかくだし依頼も受けようと思ってさ。」
「それはいいですね!」
二人は受付へ向かった。
掲示板には採取依頼や討伐依頼が並んでいる。
悠真は、その中からゴブリン討伐の依頼書を手に取った。
「これにしよう。」
「はい!」
その瞬間だった。
⸻
【クエスト発生】
初級魔法を習得せよ。
報酬:???
⸻
(いや、討伐依頼だよな……?)
悠真は心の中で小さくつぶやいた。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。」
「そうですか?」
フィルは不思議そうに首を傾げた。
どうやら、今回もクエストは悠真にしか見えていないらしい。
二人は王都の外へ向かった。
◇
森の入口に到着すると、フィルはさっそく杖を握った。
「まずは練習ですね。」
「そうだな。」
「昨日は魔法を出すことはできました。」
「今日は、それをもっと安定させていきましょう。」
悠真は頷いた。
「よし。」
まずは火属性。
「――フレイ。」
小さな炎が指先に灯る。
続いて水。
「――アクア。」
ぽたり、と水滴が落ちる。
風。
「――ウィンド。」
土。
「――アース。」
木。
「――グロウ。」
光。
「――ルクス。」
闇。
「――ダーク。」
どれも昨日と同じだった。
使えないわけではない。
だが、どれも小さい。
「うーん……。」
悠真は腕を組んだ。
「やっぱり難しいな。」
「十分すごいですよ!」
フィルは慌てて首を振る。
「普通は、こんなに早く使えませんから。」
「でも、これじゃ戦いには使えないだろ?」
「そうですね……。」
フィルも困ったような表情を浮かべた。
その時だった。
草むらが揺れた。
「ギギッ!」
ゴブリンが三匹。
棍棒を振り回しながら飛び出してきた。
「フィル!」
「はい!」
フィルは杖を構える。
「――ルクス!」
まばゆい光が放たれた。
「ギャッ!」
ゴブリンたちは驚き、思わず足を止める。
「今です!」
「ああ!」
悠真は剣を抜いた。
その瞬間だった。
(魔法だけじゃ駄目なんだ。)
(でも、剣と一緒なら――。)
悠真は剣を握りしめた。
「――フレイ。」
すると、小さな炎が剣へ吸い込まれていった。
「えっ?」
炎は刃を包み込み、赤く揺らめき始める。
「これは……。」
悠真は反射的に駆け出した。
「はっ!」
炎をまとった剣が、ゴブリンを斬り裂く。
「ギャアッ!」
一匹。
続いて二匹目。
最後の一匹はフィルの光魔法にひるみ、その隙に悠真が倒した。
静寂が訪れる。
「倒した……。」
悠真は呆然と剣を見つめた。
炎はすでに消えていた。
その時だった。
⸻
【クエスト達成】
初級魔法を習得せよ。
【報酬】
《属性付与》を獲得しました。
⸻
(やっぱり、これだったのか。)
悠真は苦笑した。
魔法そのものは、それほど強くない。
だが、剣と組み合わせることで真価を発揮する。
それが、自分の戦い方なのだろう。
「ゆ、悠真さん……。」
「ん?」
振り返ると、フィルがその場に座り込んでいた。
「どうした?」
「ど、どうしたじゃありません……。」
「魔法を剣にまとわせるなんて……。」
「そんな使い方、見たことも聞いたこともありません!」
「そうなのか?」
「そうなんです!」
フィルは大きく頷いた。
「普通は魔法だけで戦うんです!」
「なるほど。」
「なるほどじゃありません!」
悠真は思わず笑ってしまった。
◇
夕方。
二人はギルドへ戻った。
そこで待っていたのは、騎士団の任務を終えたリシェルだった。
「お待たせしました。」
「お疲れさま。」
「お疲れさまです!」
フィルが元気よく頭を下げる。
「それでは、食事にしましょうか。」
三人は近くの食堂へ向かった。
◇
「それで、それでですね!」
フィルは興奮した様子で話していた。
「悠真さんが、剣に炎をまとわせたんです!」
「へぇ。」
「しかも、そのままゴブリンを倒してしまって!」
「偶然だよ。」
「偶然じゃありません!」
フィルはむっとした顔になる。
悠真は苦笑した。
そんな二人のやり取りを見て、リシェルは静かに微笑んだ。
けれど――。
(また……。)
胸の奥が、少しだけ痛んだ。
理由は分からない。
でも、なぜか落ち着かない。
それは昨日よりも、少しだけ強い感情だった。
◇
夜。
リシェルの家へ戻る。
「それじゃあ、おやすみ。」
「はい。」
悠真は自分の部屋へ向かおうとした。
「あの……悠真。」
「ん?」
リシェルが呼び止める。
けれど、その先の言葉が出てこない。
(私は……何を言おうとしたのでしょう。)
胸がざわつく。
引き留めたい。
でも、理由が分からない。
「……いえ。」
リシェルは小さく首を振った。
「なんでもありません。」
「そう?」
「はい。」
「おやすみなさい。」
「おやすみ。」
悠真は部屋へ入っていった。
閉じられた扉を見つめながら、リシェルは静かに胸に手を当てる。
その鼓動は、少しだけ速くなっていた。
そして悠真もまた、首を傾げていた。
(どうしたんだろうな……。)
もちろん、その理由には気づいていなかった。




