表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢世界レベルアップ ~眠るたび異世界、目覚めるたび最強~  作者: 大雄山
第2章「王都編」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/64

全属性魔法

王都の朝は今日も穏やかだった。


 リシェルは騎士団の朝の任務へ向かい、悠真は約束していた場所へ足を運ぶ。


 王都郊外の小さな草原。


 そこではフィルが一人、杖を握っていた。


「おはよう、フィル。」


「あ、おはようございます!」


 フィルは笑顔で振り返る。


「朝から練習?」


「はい!」


 フィルは胸に抱えた白い魔導書を大切そうに撫でた。


「昨日やっと手に入れたばかりなので、早く使えるようになりたくて。」


「じゃあ、もう魔法が使えるの?」


「まだ少しだけです。」


 フィルは照れくさそうに笑う。


「見ていてください。」


 魔導書を開き、小さく呪文を唱える。


「――ルクス。」


 杖の先に、小さな光が灯った。


 朝日にも負けそうな、かすかな光。


 それでも昨日までは出せなかった光だった。


「おぉ……。」


 悠真は思わず感嘆の声を漏らす。


「すごいな。」


「ありがとうございます。」


 フィルは嬉しそうに笑った。


「でも、まだこれだけなんです。」


「もっと練習して、回復魔法まで使えるようになりたいんです。」


 その真っ直ぐな瞳を見て、悠真はあることを思いついた。


「なあ、フィル。」


「はい?」


「俺にも魔法って教えてもらえないかな。」


 フィルは少し驚いた顔をした。


「悠真さんにですか?」


「うん。」


「でも……。」


 フィルは困ったように首を傾げる。


「魔法は誰でも使えるものじゃないんです。」


「そうなの?」


「はい。」


 フィルは魔導書を閉じ、丁寧に説明し始めた。


「まず、その属性の適性が必要です。」


「そして魔導書を読み、魔力の流し方を覚えることで、初めて魔法が使えるようになります。」


「そこから何度も練習して、少しずつ熟練度を上げていくんです。」


 悠真は真剣に耳を傾ける。


「適性がない人は?」


「どれだけ魔導書を読んでも使えません。」


「普通の人は、一つか二つの属性が使えれば十分すごいことなんです。」


「フィルは?」


 悠真が尋ねると、フィルは少し照れたように笑った。


「私は四つです。」


「火、水、風、それから光。」


「先生からも珍しいって言われました。」


 悠真は驚く。


「四つも?」


「はい。」


「でも、それは私の家系だからだと思います。」


「昔から魔法使いの家系なんです。」


 フィルは少しだけ誇らしそうに微笑んだ。


「なるほどな……。」


 悠真は昨日手に入れた《全属性魔法》を思い出す。


(試すだけ試してみるか。)


「魔導書はないけど、呪文だけ教えてもらってもいい?」


「それなら大丈夫ですよ。」


 フィルは笑顔で頷いた。


「火属性の基本です。」


「魔力を手の先へ集めるイメージで……。」


「そして、『フレイ』と唱えてください。」


 悠真は言われた通りに集中する。


 何も起こらない。


「やっぱり無理か。」


「焦らなくても大丈夫ですよ。」


 フィルは優しく微笑んだ。


「目には見えませんけど、体の中を流れる何かを感じるようなイメージです。」


「水が流れるみたいに……。」


 悠真はもう一度目を閉じる。


 ゆっくりと呼吸を整える。


 体の奥へ意識を向ける。


 すると――


 胸の奥から、温かい何かが腕へ流れていく感覚があった。


(これか……。)


「――フレイ。」


 パチッ。


 指先に、小さな火が灯る。


 ライターほどの、小さな炎だった。


「えっ!?」


 フィルが目を丸くする。


 悠真自身も驚いていた。


「出た……。」


「魔導書もないのに……。」


 フィルは信じられないという表情で悠真を見る。


「も、もう一回やってみてください!」


「わかった。」


 今度は水。


「アクア。」


 ぽたり。


 指先から一滴の水が落ちる。


「風。」


「ウィンド。」


 ふわりと風が吹き抜ける。


「土。」


「アース。」


 足元の小石がわずかに浮き上がる。


「木。」


「グロウ。」


 草が少しだけ伸びた。


「光。」


「ルクス。」


 小さな光が手のひらに灯る。


 「最後は……闇か。」


フィルは少し緊張した表情になる。


「闇属性は少し扱いが難しいので気を付けてください。」


悠真は頷き、静かに呪文を唱える。


「――ダーク。」


指先に小さな黒い霧が集まり、ふっと消えた。


「出た……。」


フィルは言葉を失う。


どれも本当に小さな魔法。


フィルはしばらく固まったまま、悠真を見つめていた。


「……そんな。」


「え?」


「あり得ません……。」


「普通は一つの属性を覚えるだけでも何日、何週間もかかるんです。」


「しかも魔導書も読まずに……。」


悠真は苦笑する。


「たまたまだよ。」


「たまたまじゃありません!」


フィルは思わず声を上げた。


「火、水、風、土、木、光、闇……。」


「七属性全部なんて、聞いたこともありません。」


フィルはまだ驚いたままだった。


「悠真さん。」


「このことは……。」


「誰にも言わないでください。」


「え?」


「こんなことが知られたら、王国中が大騒ぎになります。」


「研究者も、魔導士団も、貴族も……きっと放っておきません。」


その真剣な表情を見て、悠真はゆっくり頷いた。


「わかった。」


「約束する。」


フィルは安心したように笑顔を見せた。


「じゃあ今日から、私が悠真さんの魔法の先生ですね。」


「よろしく。」


「はい!」



夕暮れ。


依頼を終えた悠真は、リシェルの家へ戻ってきた。


玄関を開けると、夕食のいい香りが漂ってくる。


「おかえりなさい。」


エプロン姿のリシェルが笑顔で迎えてくれた。


「ただいま。」


「今日はフィルさんと会ってきたんですよね?」


「ああ。」


悠真は椅子に腰を下ろしながら、今日あった出来事を話し始める。


「フィルに魔法を教えてもらったんだ。」


「そうなんですか。」


「最初は全然できなかったんだけど、少しだけ使えるようになってさ。」


「へぇ……。」


リシェルは相づちを打ちながら料理を並べる。


「フィルさん、優しく教えてくれたんですね。」


「うん。すごく分かりやすかった。」


「それに、明日からも練習に付き合ってくれるって。」


その言葉を聞いた瞬間。


リシェルの手が、ほんの一瞬だけ止まった。


「……そう、ですか。」


笑顔は変わらない。


けれど胸の奥が、少しだけざわついた。


(……なんだろう。)


言葉にできない違和感。


少しだけ胸が苦しいような。


落ち着かないような。


(どうして……?)


自分でも理由が分からない。


二人が一緒にいる姿を想像すると、胸の奥が少しだけ痛んだ。


「リシェル?」


「えっ?」


悠真の声で我に返る。


「あ、ご、ごめんなさい。少し考え事をしていました。」


「疲れてる?」


「いえ、大丈夫です。」


リシェルはいつもの笑顔を浮かべる。


でも、その胸の小さなざわめきだけは消えなかった。


それが何という感情なのか。


まだ、リシェル自身も知らない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ