少しずつ増える日常
朝。
窓から差し込む柔らかな陽射しで、悠真は目を覚ました。
部屋の外から、食欲をそそる香りが漂ってくる。
「おはようございます。」
リシェルが微笑みながら迎える。
テーブルの上には、昨夜作った料理が温め直されて並んでいた。
「約束通りだ。」
悠真は鍋の蓋を開け、温めた料理を皿へよそう。
そして、炊きたての白いお米を添えた。
「完成。」
「これが……?」
「カレーライス。」
リシェルは興味津々でスプーンを手に取る。
一口。
「……!」
思わず目を見開いた。
「昨日より……美味しい。」
「だろ?」
「香辛料がまろやかになっています。」
「それに、この白いご飯というものが、とても合います。」
悠真は満足そうに頷く。
「だから言ったろ。」
「カレーは二日目が一番うまいんだ。」
リシェルは小さく笑う。
「本当でした。」
二人は笑いながら朝食を楽しんだ。
◇
食後、二人は冒険者ギルドへ向かう。
受付には朝から多くの冒険者が集まっていた。
「今日は何を受けますか?」
受付嬢が尋ねる。
悠真は掲示板を見回し、一枚の依頼書を手に取った。
⸻
【討伐依頼】
ホーンラビット討伐
討伐数:10体
報酬:銀貨8枚
⸻
依頼書に触れた瞬間、青いウィンドウが現れる。
⸻
【クエスト発生】
ホーンラビットを10体討伐せよ。
報酬:???
⸻
「行ってきます。」
「お気をつけて。」
リシェルは騎士団の任務へ。
悠真は一人、東の草原へ向かった。
◇
草原を駆ける小さな影。
「いた。」
ホーンラビット。
額から短い角が生えた兎型の魔物だ。
「可愛い顔してるな。」
次の瞬間。
シュッ!
「速っ!」
一瞬で懐へ飛び込まれる。
剣を振るう。
空振り。
また横へ跳ぶ。
「本当に速い……!」
悠真は《見切り》で動きを読みながら、一歩ずつ距離を詰める。
焦らない。
無理に追わない。
相手が飛び込んできた瞬間だけを狙う。
「そこだ!」
一閃。
一体目を倒す。
その後も同じように戦い続け、最後の一体を斬り伏せた。
静かになった草原。
青いウィンドウが浮かぶ。
⸻
【クエスト達成】
ホーンラビットを10体討伐せよ。
報酬を受領します。
【スキル獲得】
《瞬歩》
⸻
「瞬歩……。」
試しに一歩踏み出す。
景色が一瞬だけ流れた。
「速い……。」
自分でも驚くほどの加速だった。
「これは使えそうだ。」
討伐したホーンラビットはアイテムBOXへ収納し、悠真は王都へ戻った。
◇
夕方。
リシェルの家。
「お帰りなさい。」
「ただいま。」
二人で夕食を囲む。
「今日の依頼はどうでした?」
「兎なのに速くて苦戦したよ。」
「ホーンラビットですね。」
リシェルは納得したように頷く。
「あの魔物は新人冒険者が苦戦する代表格です。」
「やっぱりか。」
「ですが、無事に帰ってきました。」
「成長していますね。」
その一言が少し嬉しかった。
二人は穏やかな時間を過ごし、その日は眠りについた。
◇
翌朝。
冒険者ギルド。
「今日は簡単な依頼をお願いします。」
悠真が受付へ向かう。
受付嬢は一枚の依頼書を差し出した。
⸻
【ギルド依頼】
ギルド内清掃
報酬:銀貨2枚
⸻
依頼書へ触れる。
⸻
【クエスト発生】
ギルド内を清掃せよ。
報酬:???
⸻
「たまにはこういう仕事もいいか。」
悠真は雑巾を片手に掃除を始める。
床を磨き、机を拭き、窓を磨く。
依頼はあっという間に終わった。
⸻
【クエスト達成】
ギルド内を清掃せよ。
【スキル獲得】
《クリーン》
⸻
「クリーン?」
聞いたことのないスキルだった。
◇
夕方。
リシェルの家。
夕食を終えた悠真は立ち上がる。
「皿洗いくらいは俺がやるよ。」
「ありがとうございます。」
悠真は《クリーン》を意識する。
次の瞬間。
淡い光が部屋を包み込んだ。
食器はもちろん。
流し台。
机。
床。
窓。
本棚。
玄関。
鎧。
家中の汚れが、一瞬で消え去る。
「……。」
リシェルは部屋を見回した。
指で机をなぞる。
埃一つ付かない。
「……掃除をする手間が省けました。」
少し間を置いて、
「便利なスキルですね。」
悠真は苦笑する。
「俺も、ここまでとは思わなかった。」
二人は顔を見合わせ、小さく笑った。
◇
夢世界五日目の朝。
柔らかな朝日が王都の石畳を照らしていた。
今日も王都は多くの人々で賑わっている。
悠真とリシェルは買い物のため、大通りを歩いていた。
パン屋から漂う焼きたての香り。
市場には新鮮な野菜や果物が並び、行き交う人々の笑い声が響く。
そんな穏やかな朝――。
「あっ!」
聞き覚えのある声がした。
二人が振り向くと、杖を抱えた少女が嬉しそうに駆け寄ってくる。
「悠真さん! リシェルさん!」
フィルだった。
思いがけない再会に、悠真は自然と笑みを浮かべる。
「おはよう、フィル。」
「おはようございます!」
フィルは二人の前まで来ると、ぺこりと頭を下げた。
「またお会いできましたね。」
「こっちも驚いたよ。」
悠真が笑うと、フィルも嬉しそうに微笑む。
その様子を見ていたリシェルも、小さく笑みを浮かべた。
穏やかな朝の王都。
三人の新しい物語が、ここから少しずつ動き始める。




