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夢世界レベルアップ ~眠るたび異世界、目覚めるたび最強~  作者: 大雄山
第2章「王都編」

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白銀騎士の過去

討伐任務を終えた一行は、夕暮れの王都へ戻ってきた。


 西日に染まる城壁をくぐると、街は一日の終わりを迎えようとしていた。


 フィルは二人の前で立ち止まり、深く頭を下げる。


「今日は本当にありがとうございました。」


「お二人が来てくださらなければ、私は……。」


 悠真は笑って首を振る。


「無事でよかったよ。」


 リシェルも優しく微笑んだ。


「次からは危険だと思ったら、一人で抱え込まないことです。」


「はい!」


 フィルは元気よく返事をすると、小さく手を振った。


「またお会いしましょう!」


 そう言って人混みの中へ消えていく。


 悠真はその背中を見送りながら笑う。


「元気な子だったな。」


「ええ。」


「少し危なっかしいですが。」


 二人は顔を見合わせ、小さく笑った。



 帰り道、市場は夕食の買い物客で賑わっていた。


「今日は家で食べましょう。」


 リシェルが言う。


「そうだな。」


 二人は肉や野菜を買いながら市場を歩く。


 その途中、一軒の香辛料店の前で悠真の足が止まった。


「……!」


「どうしました?」


 リシェルが不思議そうに尋ねる。


 店先には色とりどりの香辛料が並んでいる。


 黄色い粉。


 茶色い粒。


 赤い実。


 乾燥した葉。


 悠真は香りを確かめるように目を閉じた。


(この香り……。)


(間違いない。)


 思わず笑みが浮かぶ。


「店主さん、この黄色い粉と、この茶色い粒。それから、この実もください。」


 年配の店主が目を丸くした。


「全部ですか?」


「珍しいですねぇ。」


「この辺りじゃ肉の臭み消しくらいしか使われませんよ。」


「香りはいいんですが、使い道がよく分からなくて。」


「それでもお願いします。」


 店主は笑いながら袋へ詰める。


「毎度あり!」


 隣で見ていたリシェルが首を傾げた。


「そんなに香辛料を買って、どうするんですか?」


 悠真は少しだけ意味深に笑う。


「そのうち分かるよ。」


「きっと驚くから。」


「……?」


 リシェルは最後まで不思議そうな顔をしていた。


しばらく歩いたところで、悠真が口を開く。


「そういえば。」


「はい?」


「今日、村長さんがリシェルのことを『姫さん』って呼んでたよな。」


 リシェルの足が少し止まる。


 少しだけ視線を落とし、小さく息を吐いた。


「……聞いていたんですね。」


「無理に話さなくてもいい。」


「いえ。」


 リシェルは静かに首を振る。


「悠真には知っていてほしいと思いました。」


 二人はゆっくり歩きながら話し始める。


「私は王家の血を引いています。」


「やっぱり。」


「幼い頃は城で、お嬢様として育てられました。」


 だが、その生活は窮屈だったという。


 ある日、城の訓練場で汗を流す騎士たちを見た。


 泥だらけになりながらも笑い合う姿。


 誰かを守るために剣を振るう姿。


「……その時、私は思いました。」


「私も、あの人たちのようになりたい、と。」


 しかし。


 王族が騎士になることは許されなかった。


 王族には王族の役目がある。


 剣ではなく、国を治めること。


「何度も反対されました。」


「それでも諦められなかった。」


 リシェルは少しだけ笑う。


「だから私は、王位継承権を弟へ譲りました。」


 悠真は驚いて足を止める。


「そんなことまで……。」


「ええ。」


「父も母も最後まで反対しました。」


「ですが、私の意思は変わりませんでした。」


 その後、城を離れ、騎士団の学校へ入学。


 毎日誰よりも早く起き、誰よりも遅くまで剣を振った。


「卒業試験は首席でした。」


「騎士団へ入団し、任務を重ね、今は隊長を任されています。」


 その口調に誇らしさはない。


 ただ事実を話しているだけだった。


「でも。」


 少しだけ寂しそうに笑う。


「王城の貴族たちには、今でもよく思われていません。」


「王族が泥だらけになって剣を振るうなど、恥だと言われます。」


 少しだけ沈黙が流れる。


 だが、リシェルは空を見上げて微笑んだ。


「それでも後悔はありません。」


「私は、自分で選んだ道ですから。」


 その笑顔は強かった。


 けれど、その強さの裏に積み重ねてきた努力や葛藤を、悠真は感じ取っていた。



 家へ戻る。


 悠真は買ってきた食材をテーブルへ並べた。


「今日は俺が作るよ。」


「悠真が?」


「元気が出る料理。」


 リシェルは興味深そうに見守る。


 鍋に油をひき、肉と野菜を炒める。


 そこへ先ほど買った香辛料を少しずつ加えていく。


 部屋いっぱいに、これまで嗅いだことのない香りが広がった。


「すごい香り……。」


 リシェルが目を丸くする。


「こんな料理、見たことがありません。」


「もう少し待って。」


 しばらく煮込むと、とろみのある黄金色の料理が完成した。


 焼きたてのパンと一緒に皿へ盛り付ける。


「完成。」


「これは『カレー』っていう料理なんだ。」


 リシェルは恐る恐る一口食べる。


「……!」


 目が大きく開いた。


「美味しい……。」


 もう一口。


 また一口。


 気づけば夢中になって食べていた。


「香辛料なのに辛いだけじゃない……。」


「こんな料理があるなんて。」


 悠真は嬉しそうに笑う。


「気に入ってもらえてよかった。」


 二人は笑いながら食事を楽しんだ。


 やがて食べ終わる頃、悠真が少し残念そうに呟く。


「やっぱり、ご飯があればもっと合うんだけどな。」


「ご飯……ですか?」


「白いお米のこと。」


 リシェルは少し驚いたように言う。


「お米ならありますよ。」


「え?」


「王都では少し高価ですが、普通に売られています。」


 悠真は思わず笑みを浮かべた。


「じゃあ決まりだ。」


「?」


「明日はカレーライスにしよう。」


 リシェルは首を傾げる。


「今日の料理と違うのですか?」


「もっと美味しくなる。」


「どうしてです?」


 悠真は得意げに笑った。


「カレーは二日目が一番うまいんだ。」


 リシェルはくすりと笑う。


「本当に不思議な料理ですね。」


「明日のお楽しみ。」


 二人は顔を見合わせ、自然と笑い合った。


 穏やかな空気が部屋を包み込み、笑顔のまま、一日が静かに終わっていった。

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