初めての魔法
朝日が窓から差し込み、小鳥のさえずりが静かな部屋に響く。
神崎悠真はゆっくりと目を開けた。
見慣れない天井。
昨日泊めてもらったリシェルの家だ。
「……朝か。」
身支度を整えて居間へ向かうと、焼きたてのパンの香りが漂ってきた。
「おはようございます。」
キッチンからリシェルが振り返る。
「おはよう。」
テーブルには焼きたてのパンと温かなスープ、卵料理が並んでいた。
「騎士って料理もするんだ。」
「一人暮らしですから。」
少しだけ照れたように微笑む。
二人は向かい合って朝食をとる。
「今日はいい天気ですね。」
「ああ。任務日和かな。」
「ええ。」
リシェルは頷いた。
「朝食を終えたら出発します。」
「了解。」
「その前にこれを。」
悠真は鉄の剣を受け取る。
「これは?」
「私の予備の剣です。」
「持って行ってください。」
「ありがとう。」
昨日の約束どおり、悠真はリシェルとともに巡回任務へ向かった。
⸻
王都を出て半日ほど。
緑豊かな小さな村へ到着する。
「リシェル様!」
子どもたちが笑顔で駆け寄る。
老人たちも手を振り、村人たちは口々に感謝の言葉をかけていた。
その様子を見て、悠真は自然と笑みを浮かべる。
「みんなに慕われてるんだな。」
「騎士として当然の務めです。」
照れ隠しなのか、リシェルは少しだけ視線を逸らした。
そこへ村長が歩み寄る。
「姫さん、今回も来てくださってありがとうございます。」
一瞬だけリシェルの表情が固まる。
「あ……。」
村長もすぐに口を押さえた。
悠真は首をかしげる。
「姫?」
リシェルは咳払いを一つ。
「昔から、そう呼ばれているだけです。」
「へぇ、人気者なんだな。」
「……そういうことにしてください。」
どこかぎこちない笑顔だった。
⸻
その時だった。
森の奥から爆発音が響く。
ドォォン!!
「魔物です!」
騎士の一人が叫ぶ。
リシェルは迷わず大剣を抜いた。
「現場へ急ぎます!」
騎士団は一斉に森へ駆け出す。
⸻
森の中では、一人の少女が十数体のゴブリンに囲まれていた。
長い金髪。
小柄な身体。
手には一本の杖。
「ファイア!」
杖の先から火球が放たれる。
轟音とともにゴブリンが吹き飛ぶ。
悠真は目を見開いた。
「魔法……。」
初めて見る、本物の魔法。
「すげぇ……。」
思わず声が漏れる。
しかし数が多い。
少女は徐々に追い詰められていく。
「援護します!」
リシェルが飛び込む。
悠真も剣を抜き、騎士団とともに戦闘へ加わった。
騎士たちが周囲のゴブリンを倒していく。
少女はようやく大きく息をついた。
「助かりました……。」
その瞬間だった。
ズシン……
ズシン……
重い足音が森に響く。
木々を押しのけ、一回り大きなゴブリンが姿を現した。
鉄の剣。
頑丈な盾。
統率者の風格。
「ゴブリンジェネラル!」
騎士が叫ぶ。
同時に、悠真の視界へ青いウィンドウが浮かび上がる。
⸻
【緊急クエスト発生】
『ゴブリンジェネラルを討伐せよ』
失敗条件
・騎士団の壊滅
・魔法使いの死亡
報酬:???
⸻
「また始まったか……。」
悠真は剣を構える。
リシェルも隣へ並んだ。
「騎士団は残りのゴブリンを!」
「ジェネラルは私たちが引き受けます!」
「了解!」
ジェネラルが盾を構え突進してくる。
悠真は《見切り》で紙一重にかわす。
剣を受け流し、体勢を崩す。
そこへリシェルが鋭い一撃を叩き込む。
だが盾に阻まれた。
「硬い……!」
その後方で少女が静かに杖を掲げる。
「少しだけ時間をください!」
長い詠唱が始まる。
リシェルが叫ぶ。
「悠真!」
「時間を稼ぎます!」
「ああ!」
二人は自然と息を合わせる。
悠真が攻撃を誘い、リシェルが斬る。
リシェルが受け止め、悠真が側面へ回る。
以前よりも連携は格段に良くなっていた。
「できました!」
少女の杖が青白く輝く。
「ウィンドランス!」
圧縮された風の槍が一直線に飛ぶ。
ジェネラルの脚を貫き、その巨体が大きく揺らいだ。
「今です!」
リシェルが地面を蹴る。
「これで終わりです!」
白銀の大剣が美しい軌跡を描く。
ザシュッ!!
一閃。
ゴブリンジェネラルは静かに崩れ落ちた。
森に静寂が戻る。
悠真は大きく息を吐く。
「終わった……。」
その時、青いウィンドウが静かに浮かび上がる。
⸻
【緊急クエスト達成】
『ゴブリンジェネラルを討伐せよ』
⸻
【報酬獲得】
レベルアップ!
Lv.10→Lv.12
スキル《料理》を獲得しました。
⸻
「……料理?」
悠真は思わず苦笑する。
「戦いのあとに料理か?」
首をかしげながらも、不思議と嫌な気はしなかった。
この力が、誰かの心を支える日が来ることを、まだ悠真は知らない。
そして、助けた魔法使いの少女――フィルとの出会いが、新たな仲間との物語の始まりを告げようとしていた。




