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夢世界レベルアップ ~眠るたび異世界、目覚めるたび最強~  作者: 大雄山
第2章「王都編」

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帰り道

夏の日差しが少しずつ傾き始める。


 湖畔には炭の香ばしい匂いが漂い、網の上では肉がじゅうじゅうと音を立てていた。


「やっぱり外で食べると美味しいね。」


 陽菜が紙皿を手に笑う。


「景色もごちそうだからな。」


 悠真も笑い返し、焼き上がったソーセージを皿へ乗せた。


 SUPを楽しんだ後のバーベキュー。


 身体を動かしたあとの食事は格別だった。


「仕事、最近どう?」


「相変わらずだよ。忙しいけど。」


「悠真って昔から真面目だから、無理しそうで心配なんだよね。」


「そんなに働き詰めじゃないよ。」


「ほんとかなぁ?」


 陽菜はじっと悠真を見つめる。


「でも、今日はなんか元気そうだった。」


「そう見えた?」


「うん。SUPも前より上手くなってたし。」


 悠真は苦笑した。


 夢世界で手に入れた《身体強化》。


 もちろん口にするわけにはいかない。


「最近、体を動かしてるからかな。」


「ふーん。」


 陽菜は深く追及することなく、缶ジュースを口に運んだ。


 こういう距離感が心地いい。


 昔から何も変わらない。


 恋人ではない。


 けれど、一緒にいて気を遣わない大切な幼馴染。


 そんな時間が、ゆっくりと流れていく。



 夕焼けが湖を赤く染め始めた頃、二人は後片付けを終えた。


「今日はありがと。」


「こっちこそ。」


「また来ようね。」


「ああ。涼しくなった頃もいいかもな。」


「約束だからね。」


 陽菜は笑顔で手を振り、自分の車へ向かっていった。


 悠真もSUPボードを積み込み、運転席へ乗り込む。


 エンジンをかける。


 カーナビには、自宅までの帰り道が表示された。


「さて、帰るか。」


 アクセルを踏み込み、車は静かに走り出した。



 峠道へ入る頃には、空はすっかり茜色から群青色へ変わっていた。


 街灯は少なく、ヘッドライトだけが前方を照らしている。


 窓の外では、ヒグラシの鳴き声が静かに響いていた。


 昼間、湖で感じた違和感が頭をよぎる。


 空気が一瞬だけ揺らいだ、あの感覚。


「……気のせい、だよな。」


 そう呟いた、その時だった。


 ドンッ!


「っ!」


 鈍い衝撃が車体を揺らす。


 悠真は反射的にブレーキを踏み込んだ。


 タイヤが短く鳴き、車は路肩で停止する。


「何だ……?」


 シートベルトを外し、ハザードランプを点灯させる。


 懐中電灯を持ち、ゆっくりと車を降りた。


 夜の山は静かだった。


 聞こえるのは虫の鳴き声だけ。


 フロントバンパーを照らす。


 擦れたような跡はある。


 だが――。


「いない……?」


 ぶつかったはずの動物が見当たらない。


 道路にも血痕はない。


 毛も落ちていない。


 鹿なら、この程度で走り去れるとは思えない。


 首を傾げながら周囲へライトを向ける。


 その時。


 ガードレールの向こう。


 草むらが、小さく揺れた。


 ガサッ……。


 悠真は息を呑む。


 光を向ける。


 しかし、そこには風に揺れる草しかなかった。


「……逃げたのか。」


 自分に言い聞かせるように呟く。


 気のせいだったのかもしれない。


 そう思い、車へ戻ろうとした、その瞬間。


 森の奥から、低く短い鳴き声のようなものが聞こえた。


 「……グルルッ」


 犬とも、鹿とも違う。


 聞いたことのない声。


 悠真は思わず足を止めた。


 だが、それ以上の音は聞こえなかった。



「……帰ろう。」


 そう呟き、車へ乗り込む。


 エンジンをかけ、再び走り出す。


 ルームミラーには、暗い山道だけが映っていた。


 誰もいない。


 何もいない。


 そう思うことにした。


 けれど胸の奥に残る違和感だけは、消えることがなかった――。

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