庭先ではじめての。
昼食を終えた悠真たちは、館の前に広がる庭へと出ていた。
少しして、スズが土の龍核兵を抱きかかえながら、こちらへ駆け寄ってくる。
「スズちゃん、何して遊ぼうか〜」
フィルが尋ねると、スズは少し考えてから悠真を見上げた。
「ん〜、悠真お兄ちゃん、何か無い〜?」
「そうだね……鬼ごっこは?」
「鬼ごっこ? って何〜?」
聞いたことのない遊びらしく、スズが首を傾げる。
「一人が鬼ってのになって、みんなを捕まえる遊びだよ。捕まえたら、次はその人が鬼になるんだ」
「わかった〜。それなら、まずは悠真お兄ちゃんが鬼?」
「そうだね。僕から鬼をやるよ。十数えるから、みんな逃げてね。捕まった人は、また十数えてから捕まえに行くんだ」
「それじゃ〜、逃げろ〜!」
フィルが勢いよく駆け出す。
「わ〜!」
スズも楽しそうにその後を追った。
「え? 私もですよね!?」
突然始まった鬼ごっこに、ミリアが戸惑った声を上げる。
「もちろんです〜!」
フィルの返事を聞き、ミリアも慌てて走り出した。
悠真はその場で十を数え終えると、逃げていく三人を見渡した。
最初の標的は――フィル。
「悠真さん。私は捕まりませんよ〜! 逃げのフィルと呼ばれたこの私を……」
「誰だよそれ。はい、捕まえた〜」
「……今、瞬歩使いました〜?」
「使ってません」
「この、偉大な魔術師を捕まえるとは……」
納得のいかない表情を浮かべながら、フィルはその場で十を数え始めた。
そして次に狙いを定めたのは、スズだった。
「スズちゃん。逃げられませんよ〜」
「きゃ〜! こっち来ないで〜!」
笑い声を上げながら、スズが庭を駆け回る。
「誰か。助けて〜!」
「ちょっと、あまりその言葉を大きい声で叫ばないで下さい〜!」
「へへ〜。今のうちに、逃げろ〜!」
「あ〜、ズルいです〜!」
スズはフィルが慌てている隙に、さらに遠くへと逃げていく。
フィルは足を止めると、今度はミリアへと向き直った。
「それなら、ミリアちゃんいきますよ〜!」
「私は普段から鍛えてますから」
「……ミリアちゃん。本気ですね? 私も覚悟を決めました〜。いきます!」
フィルが勢いよく手を伸ばす。
しかし――
スカッ。
「ぬぬぬぬ〜。待て〜!」
フィルは必死になってミリアを追いかける。
だが、ミリアは身軽な動きでフィルの手をかわし、方向を変えては逃げていく。
「はぁ、はぁ……ミリアちゃん、すばしっこいですね〜。悠真さん覚悟〜!」
今度は悠真へと標的を変える。
「って、全然追いつきませんよ〜!」
「フィルお姉ちゃん、こっちだよ〜!」
少し離れた場所から、スズが楽しそうに手を振っている。
「待て〜!」
再びスズを追いかけるが、あと少しのところでするりと逃げられる。
悠真を追っても届かない。
ミリアには軽々とかわされる。
スズにまで振り回され、フィルの体力は次第に限界へと近づいていた。
「はぁ……はぁ……こうなったら……」
フィルが立ち止まり、杖を構える。
「《アイスフィールド》!」
「え?」
次の瞬間、庭一面が一気に凍りついた。
突然足元が滑り、悠真たちは転ばないよう必死に踏ん張る。
その中を――フィルだけが風魔法を使って滑るように移動してきた。
「はい。捕まえた〜!」
「フィルちゃん、ずるいですよ。風魔法を使って自分だけ移動してくるなんて」
捕まったミリアが呆れたように言う。
「へへ〜ん。勝負に勝てばいいんです」
「フィルお姉ちゃん、これじゃ〜鬼ごっこ出来ないよ〜」
「あ……はい。ごめんなさい〜」
凍りついた庭を見回しながら、フィルが申し訳なさそうに肩を落とす。
その様子を見ていた悠真は、ふと思いついた。
「はは。せっかくなら、フィル。氷の坂道作ってくれる? そこをみんなで滑るんだ」
「賛成〜! それなら、土の龍核兵ちゃんも一緒に遊べる〜!」
鬼ごっこが始まってから、足の遅い土の龍核兵は参加することができず、庭の端にちょこんと立っていた。
スズはそんな龍核兵のもとへ駆け寄ると、嬉しそうに抱き上げる。
「分かりました〜。《アイスウォール》!」
フィルが魔法を発動すると、庭に大きな氷の坂道が出来上がった。
「私が一番に滑る〜!」
スズは土の龍核兵を抱えたまま、氷の坂道を勢いよく滑り出した。
「きゃ〜! 楽しい〜!」
滑り終えたスズはすぐに振り返る。
「フィルお姉ちゃんとミリアお姉ちゃんも一緒に滑ろ〜!」
「わかりました〜。ミリアちゃんもいきますよ〜」
「わかりました」
先ほどまで戸惑っていたミリアも、今ではすっかり遊びの輪に加わっていた。
それからしばらく、悠真たちはスズと一緒に氷の滑り台で遊び続けた。
そんな時間を過ごしていると――
「悠真様。少しよろしいでしょうか」
声をかけられ振り返ると、庭へ入ってきたルクスがこちらへ歩いてくるところだった。
「はい。どうしました?」
「先程、使いの者がこちらに来まして。この街のご領主様が、悠真様にお会いになりたいとのことです」
「え? 領主? 何で?」
突然の話に、悠真は首を傾げる。
「私にも理由までは分かりません。ただ、この後こちらへ馬車と使いの者が参りますので、悠真様にはその者と一緒に、ご領主様のもとへ向かっていただきたいと思います」
「僕、一人ですか?」
「はい。そのように伺っております」
「……わかりました。服装はこのままで大丈夫ですか?」
悠真は自分の服装を確認する。
領主に会うとなれば、さすがにこのままでいいのか少し不安になる。
「はい。この街のご領主様はとても良いお方ですので、大丈夫ですよ」
「そうですか」
ルクスがそう言うのであれば問題ないのだろう。
悠真はフィルたちの方へ振り返った。
「フィル。そういうことだから、後はお願い」
「わかりました〜。スズちゃん、悠真お兄ちゃんはこれからお出掛けするから、私たちと遊ぼうね〜」
「うん!」
スズは元気よく返事をすると、悠真へ向かって手を振った。
「お兄ちゃん、いってらっしゃい」
「うん。ごめんね。また帰ってきたら遊ぼうね」
「うん!」
スズの隣では、土の龍核兵も悠真を見上げながらちょこんと立っている。
その後、悠真はルクスと共に館の中へ戻った。
しばらくすると、領主の館から迎えの馬車と使いの者がやって来る。
悠真は使いの者に案内されるまま馬車へ乗り込んだ。
扉が閉まり、ゆっくりと馬車が走り出す。
窓の外に流れていくメソヴェリアの街並みを眺めながら、悠真は先程のルクスの言葉を思い返していた。
(領主か……。いったい何の用だろう?)
理由も分からないまま、悠真を乗せた馬車は領主の館へと向かっていった。




