星空の下で
夕食を堪能した悠真たち。
食後、悠真は丘から見える景色を眺めながら、ふと思った。
(せっかくこんな景色なんだし、露天風呂なんかあったら気持ちいいだろうな。)
「……ツバキさん。」
「なに?」
「この辺りに、みんなで入れるくらいのお風呂を作りませんか?」
「え? いいけど。」
「沐浴着なら持ってきてますから、みんなで入りませんか?」
その言葉を聞いたフィルが、すぐに反応する。
「いいですね〜。お湯は私が用意しますよ〜。」
「お? いいな。だが、ただの風呂か〜。」
ゼノンが少し物足りなさそうに呟く。
「大丈夫です。雰囲気だけなら、温泉の素ってやつを現世から持ってきてますから。」
「なんかよくわからねえが、温泉みたいなのに入れるならいいじゃねーか。」
「そうね。みんなでお風呂に入りましょうか。」
「賛成です〜。」
ツバキは《古代錬成》で五メートル四方の窪みを作ると、お湯が染み込んで逃げないよう《物質の昇華》で地面を強化した。
そこへフィルが大量のお湯を注いでいく。
あっという間に即席の露天風呂が出来上がると、悠真は《アイテムBOX》から現世で買ってきた温泉の素を取り出し、お湯の中へ入れた。
白く濁ったお湯から、温泉らしい香りが辺りに立ち込める。
「いい匂いね。さっそく入りましょう。」
「うわ! って、ツバキさん! ここで脱がないでください!」
悠真は慌てて沐浴着を差し出す。
「テントの中で、これに着替えてきてください!」
「そうですよ! さ、テントに行きましょう!」
フィルがツバキの背中を押していく。
「もう、早く入りたいのに。」
「ダメです!」
二人を見送りながら、悠真は呟いた。
「さすが、一児の母……。」
「なら、俺が先に入っちまうわ〜。」
振り返ると、ゼノンはすでに風呂へ入り、その片手にはジョッキが握られていた。
「さっそく片手にジョッキ持ってますね。」
「おう。このハイボールは飲みやすくて止まらないな〜。」
しばらくして、沐浴着に着替えたフィルとツバキも戻ってきた。
四人で湯に浸かり、丘の上から広がる景色と夜空を眺める。
「ふ〜。いいわね〜。」
「はいです〜。この星空もサイコーです〜。」
楽しそうなフィルを見て、悠真は微笑んだ。
「良かった。元気になったみたいで。」
「私は、いつでも元気ですよ〜。」
「はは。そうだね。」
悠真は肩まで湯に浸かり、空を見上げた。
「あ〜、気持ちいい〜。」
そこで何かを思い出し、《アイテムBOX》から一本の酒を取り出す。
「そうだ。フィル、これ飲んでみて。甘いから。」
「何ですか〜?」
「果実酒だよ。甘くて飲みやすいから、どうかなって。」
フィルは少し警戒しながら、一口だけ口にする。
「ん〜! 甘いです〜。これなら飲めます〜。」
「飲みやすいからって、あんまり飲み過ぎると酔っぱらっちゃうから、ほどほどにね。」
「はいです〜。」
「悠真さん。私の分はありますか?」
「はい。ツバキさんはワインですね?」
「そう。それが飲みたかったの。」
しばらく、悠真たちは星空の下で露天風呂を堪能していた。
「悠真ひゃ〜ん。おかわりくらさ〜い。」
「フィル……まだ一杯だよ。」
「へ〜? いいきもりれす〜。」
完全に目が据わっているフィルを見て、悠真は苦笑する。
「ツバキさん。いいですか?」
「ええ。テントへ寝かせてくるわ。」
「なんれすか〜!? わらひは、まらのめまふ〜……」
そこまで言ったところで、フィルの瞼がゆっくりと閉じていく。
「……すぅ……。」
「はは。まさか一杯で潰れちゃうなんてね。」
「そうね。まあ、ちょうど良かったかもしれないわね。」
ツバキは眠ってしまったフィルを背負う。
「おやすみなさい。」
「おやすみなさい。フィルをお願いします。」
ツバキはフィルをおんぶしたまま、テントへと戻っていった。
「ゼノンさんはどうしますか?」
「俺は、もうしばらく入ってから寝る。」
「わかりました。僕もそろそろ寝ますね。」
「おう。おやすみ。」
「おやすみなさい。」
悠真も露天風呂を出ると、自分のテントへ戻った。
横になり、今日一日のことを思い返す。
(フィルも元気になって良かった。)
悠真は小さく息を吐く。
(……明日は大丈夫かな?)
今度はフィルの違う心配をしながら、悠真は眠りについた。




