笑顔の向こう
屋台でパスタを食べ終えた悠真とフィルは、宿へと戻っていた。
「悠真さんって、いつも何かしてますね〜?」
「ん〜、なんでだろうね。そういう星の下に生まれたのかな?」
「何言ってるんですか〜。」
「はは。」
そんな話をしながら宿へ戻ると、悠真はそのままゼノンの部屋へ顔を出した。
「ゼノンさん。どうですか?」
「お〜、ちょうどいいところに来たな。魔道コンロが出来たから見てくれ。」
「え? 出来たんですか?」
「おう。」
部屋の中にはツバキもいた。
「ええ。夢中になっていたら、出来上がってしまったわ。私が部品を錬成して、ゼノンが組み立てながら調整していたのよ。」
「ちゃんと火力も調整出来るぞ。それに、この魔石に魔力を注いでやれば、いくらでも使える。」
「本当ですか? すごいです。カセットコンロはガスがなくなると終わってしまうので、毎回ガスボンベのガスを復元してたんですよ。」
「それも、たいして変わらね〜けどな。」
「ですよね〜。」
フィルが笑いながら、持っていた包みを差し出した。
「それと、これどうぞ〜。悠真さんが何故か屋台の横で作ったパスタです。どうせ、何も食べてないんじゃないですか〜?」
「おお、助かるわい。確かに夢中になって、何も食べていなかったな〜。」
「ええ。でも悠真さん、またですか?」
ツバキに言われ、悠真は苦笑する。
「はい。またやりました。」
「悠真さんは、どれだけ街おこしすれば気が済むんですかね〜?」
「はは……。」
部屋に笑い声が響く。
こうして、慌ただしかった一日は静かに暮れていった。
◇◇◇
日も昇り、支度を終えた悠真たちは宿を後にした。
馬車に荷物を積み、出発の準備をしていると、どこからともなく街の人々が集まり始める。
その中から、ギルドの職員が前へ出た。
「本当にありがとうございました。みなさんのおかげで、この街は救われました。また、この街に寄ってくださいね。」
「次に来る頃には、いろんな麺料理を用意しとくよ!」
昨日の屋台のおばちゃんも、人混みの中から声を上げる。
「楽しみです〜。」
フィルが嬉しそうに答えた。
悠真は集まった人々を見渡す。
「それでは、みなさん。また。」
「ありがとう〜!」
「また寄ってくれよ〜!」
次々と声が飛んでくる。
悠真が手綱を握り、馬車を進めようとした――その時だった。
「フィル! 待って!」
「え?」
呼び止められたフィルが振り返る。
人混みをかき分け、一人の若い女性が駆けてきた。
「どうしたの?」
悠真が尋ねると、フィルは少しだけ表情を曇らせた。
「魔法学校の時のクラスメートです……。」
そして、小さな声で続ける。
「その……あまり私のことを……。」
「あ……。」
悠真は思い出した。
フィルが学生だった頃、決していい思い出ばかりではなかったことを。
女性はフィルの前まで来ると、息を整え、深く頭を下げた。
「ごめんなさい。あなたのこと、学生の時にいろいろ言ってしまって……。」
「……。」
「でも、主席で卒業して……本当はすごいと思っていたの。ずっと謝りたかったの……。」
女性はもう一度、頭を下げる。
「本当にごめんなさい。」
そして顔を上げると、フィルをまっすぐ見つめた。
「それと……この街を救ってくれて、ありがとう。」
フィルはしばらく何も言わなかった。
やがて――。
「……もう、いいです。」
「え?」
「そんな昔のことは忘れました〜。」
いつものように、フィルが笑う。
「だから、これからは仲良くしてください〜。」
「いいの……?」
悠真も思わずフィルを見る。
「いいのか?」
「はいです〜。次にこの街に来たら、美味しいものを教えてくださいね。」
「うん! わかった。次に来た時は、いっぱいご馳走する!」
「楽しみです〜。」
悠真はフィルの笑顔を確認すると、ゆっくりと馬車を走らせた。
街が少しずつ遠ざかっていく。
「フィル。偉かったですよ。」
ツバキが優しく声をかける。
「はい……。私は偉大な魔術師なので、ちっちゃいことは気にしません……。」
「フィル。偉かったよ。」
「うむ。たいしたもんだ。」
悠真とゼノンの言葉に、フィルは何も答えなかった。
「……。」
俯いたフィルの頬を、一筋の涙が伝う。
悠真は何も言わなかった。
ただ、フィルが落ち着くまで静かに馬車を走らせた。
しばらくして――。
「ふ〜……。みなさん、ありがとうございました。」
いつもの声が聞こえ、悠真は少しだけ振り返る。
「うん。それなら、美味しいもの作らないとかな?」
「はいです〜。美味しいもの、いっぱい食べたいです〜。」
「それなら、今日は早めに野営の準備をしようか。」
するとツバキが、進行方向を見ながら言った。
「しばらく進むと、ちょうど見晴らしのいい丘があります。そこで野営しましょう。」
「わかりました。」
悠真は頷き、馬車をそのまま街道の先へと走らせていった。




