麺料理
「お店の横、借りますね。」
「ああ。私も見てていいかい?」
「はい。もちろんです。」
悠真はアイテムBOXから折りたたみ式のテーブルを取り出すと、その上に広めのまな板と大きめのボウルを用意した。
まずはボウルに小麦粉と卵、オリーブオイル、塩を入れて混ぜていく。
さらに水を少しずつ加えながら固さを調整し、ひとまとまりになるまでしっかりと捏ねていった。
「そんなに捏ねるのかい?」
「はい。これくらいまで捏ねたら……。」
生地の状態を確かめる。
「よし。」
悠真はボウルに蓋をして、そのまま生地を寝かせておく。
「少し時間を置くので、その間にソースを作っちゃいますね。」
「ソース?」
「はい。」
悠真はトマトを何個か用意すると、その半分を潰してこしていく。
残り半分は細かく刻んでおいた。
次にガスコンロとフライパンを取り出し、油を引く。
そこへ刻んだニンニクを入れると――。
ジュウッ――。
香ばしい匂いが立ち上った。
「おっ、いい匂いだねぇ。」
悠真はニンニクを焦がさないように炒め、そこへ先ほどこしたトマトを加える。
さらに刻んだトマトも加え、そのまま火を通していった。
しばらく炒めてから、悠真は味を確かめる。
「よし。このくらいかな。」
ソースが出来上がったところで、寝かせておいた生地を取り出した。
まな板の上に置き、麺棒を使って薄く伸ばしていく。
「さっきの小麦粉が、こんなに薄くなるのかい。」
店主は興味津々で悠真の手元を覗き込んでいた。
十分な薄さまで伸ばしたところで、生地を折り畳む。
そして包丁を手に取り――。
トン、トン、トン――。
一定の幅で切り分けていく。
「これが……麺なのかい?」
「はい。」
悠真は切った生地をほぐしていく。
鍋にたっぷりの湯を沸かし、出来上がった麺を入れる。
しばらく茹でたところで一本取り出し、固さを確認した。
「……うん。」
ちょうどいい。
悠真は麺を湯切りすると、そのまま皿へ盛りつける。
そして、先ほど作っておいたトマトソースを出来たての麺の上へかけていく。
「トマトガーリックパスタの出来上がりです。」
悠真は出来上がった皿を店主の前へ差し出した。
「良かったら、食べてみてください。」
「いいのかい? それじゃあ……。」
店主はフォークで麺を巻き取り、口へ運ぶ。
「うん! 美味しい〜!」
目を丸くしながら、もう一口。
「もちもちしてて、喉越しもいいねぇ。それに、このトマトのソースも美味しいよ〜。」
店主は感心したように麺を持ち上げた。
「あの小麦粉が、こうなるとはねぇ……。」
「気に入ってもらえて良かったです。」
「この料理、うちでも出していいかい?」
「はい。大丈夫ですよ。」
悠真は頷く。
「それに、太さや硬さを変えれば、スープに入れたり、焼いたり、いろんな料理に使えると思います。いろいろ試してみてください。」
「いいのかい? ありがとね〜。」
「はは。では、僕も、いた、だき……ま……。」
ようやく自分も食べようとした悠真だったが――。
ふと、周囲を見回した。
「…………え?」
いつの間にか、店の周りには人だかりができていた。
「お兄さん。何やらいい匂いがするけど、それは何だい?」
「私たちにも食べさせてもらえるかい?」
「金は払うから、俺も食べてみたいぞ!」
次々と声が飛んでくる。
悠真が呆然としていると、店主が笑った。
「私も作ってみたいし、一緒にやるかい?」
「はは……。わかりました。」
悠真は諦めたように笑う。
「では、順番にお待ちください。」
それから悠真と店主は、二人並んで次々とパスタを作っていった。
生地を捏ね、伸ばし、切って、茹でる。
店主も悠真の作り方を真似しながら、少しずつ手際が良くなっていく。
そして――。
ようやく客足が落ち着いた頃には、すでに夕方になっていた。
「お疲れさん。」
店主が満足そうに笑う。
「おかげで、もうちゃんと作れるようになったよ〜。ありがとね。」
「いえ……。」
悠真は疲れ切ったように肩を落とした。
「……疲れた。パスタ食べたかっただけなのに。」
その時だった。
「あ〜! 悠真さん!」
聞き慣れた声に振り返る。
街を歩いていたフィルが、こちらへ駆け寄ってきた。
「帰ってこないと思ったら、こんなところにいたんですね〜。」
「フィル。」
「悠真さんを訪ねてギルドに行ったら、急にBランクに上がって驚きましたよ〜。」
どうやら、ギルドにも寄ってきたらしい。
「それにしても、何してるんですか〜?」
「え? いや……。」
悠真は店と調理器具、それから残った材料を見回した。
「パスタを食べようとしたら、なんかこんなことになっちゃって。」
「パスタ?」
フィルの目が輝く。
「前に食べたやつですね〜?」
「そうだけど……。」
「なら、私も食べたいです〜!」
「え〜。今から〜?」
「はいです〜!」
満面の笑みで答えるフィル。
「…………。」
悠真は小さく息を吐いた。
「しょうがない。自分の分も含めて作りますか……。」
「やったです〜!」
喜ぶフィルを横目に、悠真は再び小麦粉へ手を伸ばした。
今日は、昨日の疲れを取るための休みだったはずなのだが――。
「……まあ、いいか。」
悠真は苦笑しながら、もう一度生地を捏ね始めた。




