新たな痕跡
悠真はゆっくりと目を覚ました。
「……朝か。」
身体を起こし、ぼんやりと周囲を見渡す。
見慣れない部屋だった。
「……ああ、そうか。」
昨日、ギルドが別の宿を用意してくれたのだった。
一人一部屋で、それぞれに浴室まで付いている。
昨日まで泊まっていた宿よりも、ずいぶん立派な部屋だ。
町を洪水から守ったあと、この宿へ案内され――。
「そのまま寝ちゃったんだっけ……。」
ベッドから起き上がり、悠真は大きく伸びをした。
コンコン――。
部屋の扉を叩く音が響いた。
「はい?」
「悠真様。朝食はいかがなさいますか?」
扉の向こうから聞こえてきた声に、悠真は少し驚く。
「え? 食べます。」
「かしこまりました。後ほど、朝食をお持ちいたします。」
「はい。わかりました。」
足音が遠ざかっていく。
「すごいな……。部屋で朝食も食べられるんだ。」
しばらくすると、再び扉がノックされた。
「失礼いたします。朝食をお持ちしました。」
「ありがとう。」
テーブルの上に朝食が並べられていく。
悠真は椅子に腰を下ろし、料理を眺めた。
「美味しそうだ。いただきます。」
朝食を食べながら、今日のことを考える。
昨日の疲れを取るため、今日は一日休みにしていた。
「でも、どうしようかな……。」
特に予定は決めていない。
「あとで、みんなに聞いてみよ。」
悠真はそう呟くと、再び朝食へ手を伸ばした。
朝食を食べ終えた悠真は、今日どうするのかみんなに聞いて回ることにした。
まずフィルの部屋を訪ねてみたが、まだ眠っているようだった。
「まだ寝てるか……。」
起こすのも悪いと思い、そのままゼノンの部屋へ向かう。
部屋を訪ねると、ゼノンはすでに昨日途中になっていた魔導具の製作を始めていた。
そこにはツバキの姿もある。
「おはようございます。もう魔導具作ってるんですね。」
「おう。昨日できなかったからな。作りたくてしょうがなくて、ツバキも呼んできたんだ。」
「悠真さん、おはよう。」
ツバキが振り返る。
「まったく、この人ったら朝から急に呼び出すんだもの。」
そう言いながらも、ツバキは作りかけの魔導具へ視線を戻した。
「まあ、私も気になってはいたから。」
「そうですか。わかりました。」
どうやら二人は、このまま魔導具作りを続けるつもりらしい。
「それでは、僕は昨日のことが気になるので、ギルドに顔を出してきます。」
「わかったわ。よろしく頼むわね。」
「はい。」
二人に別れを告げると、悠真は宿を後にした。
そして、昨日の洪水の様子を確認するため、冒険者ギルドへと向かった。
悠真が冒険者ギルドへ入ると、それまでざわついていたギルド内が急に静かになった。
「……?」
何事かと周囲を見渡していると、昨日対応してくれたギルド職員が駆け寄ってくる。
「悠真さん! 昨日は本当にありがとうございました。」
「いえ。それより、その後はどうですか?」
「はい。雨も止んで、川も元通りに戻りつつあります。」
「そうですか。良かった。」
悠真がほっと息をつく。
「それと、他の方々は?」
「みんなは宿でのんびりしてるよ。あんなすごい宿を用意してくれて、ありがとう。」
「いえいえ。この街を救ってくださったんですから、当然のことです。」
職員は笑顔で答えると、続けた。
「それから、あの湖なんですが――これから街の人たちで周辺を整えていくことになりました。」
「湖?」
「はい! 新しい観光名所になりそうです。」
「え? 観光名所?」
思いもしなかった言葉に、悠真は目を丸くする。
「この街を守ってくれた湖ですから。街のみんなで大事にしていこうって話になったんです。」
「そうですか。それなら、良かったです。」
昨日、洪水を防ぐために作った巨大な窪地。
そこに溜まった水が、今度はこの街の新しい景色として残っていくらしい。
「それから、もう一つあります。」
「はい?」
「ギルドマスターから、皆さんのギルドランクをBランクまで上げておくようにと言われています。」
「Bランク?」
「はい。ただ、フィルさん以外の皆さんはすでにBランクでしたので、後ほどフィルさんにはギルドへ寄っていただければと思います。」
「わかりました。伝えておきます。」
「本当は、ギルドマスターは皆さんをAランクまで上げたかったそうなんですが、この街のギルドにはそこまでの権限がないようでして。」
職員は少し残念そうに笑った。
「ですが、大都のギルドへは申請しておくとのことでした。」
「Aランクですか? そこまでしていただかなくても……。」
「いえ!」
職員は力強く首を振った。
「皆さんは、それほどのことをしたんです。私もギルドマスターに賛成です。」
「はは……。」
悠真は困ったように笑った。
職員に礼を告げてギルドを出る。
せっかくの休みだ。
悠真はそのまま、昨日の洪水から一夜明けた街を見て回ることにした。
街を歩いていると、悠真はあることに気がついた。
「……小麦粉、多いな。」
店先や市場のあちこちに、小麦粉の袋が積まれている。
それだけではない。
街を歩いていると、パンを売る店や屋台もかなり多かった。
気になった悠真は、一軒のパン屋台で足を止めた。
「すみません。この街って、小麦粉が多いんですか?」
「ああ。この辺りじゃ、小麦や野菜がたくさん採れるからね。」
「へえ……。」
悠真は屋台に並ぶパンを眺めながら、ふと首を傾げた。
これだけ小麦粉がある。
それなのに――。
「そういえば、麺類ってないんですか?」
「めんるい?」
店主が聞き慣れない言葉に首を傾げる。
「はい。小麦粉を使って作るんですけど……。」
「そんな食べ物があるのかい?」
「え?」
「良かったら、作ってみてくれるかい?」
「いいですよ……。」
そう答えたところで、悠真はふと動きを止めた。
(……あれ? なんか、似たようなことが前にも……。)




