第6話 王都の高級スィーツが凄かった!
王都に帰還した僕とエルを待っていたのは、泥のように疲弊したクラスメイトたちの恨めしげな視線……ではなく、瑞々しい「利益」の予感だった。
寮に荷物を置くのももどかしく、僕たちはその足で王都の冒険者ギルドへと向かった。
「……次、の方。査定希望ですね」
受付の職員さんが、僕たちの子供っぽい姿を見て少し侮ったような顔をした。けれど、僕が空間収納からほぼ無傷の『アース・ベア』と、銀色の『センチピードの殻』、それに『月光苔』をドサドサとカウンターに並べると、その顔は一瞬で硬直した。
「……ひっ!? こ、これは……アッサママの高級素材ばかりじゃないですか! しかも、喉元の一突きだけで仕留めてる……。これほど良質な素材、数年ぶりですよ!」
奥から血相を変えて出てきた鑑定士のおじいさんが、震える手で毛皮を撫で回している。
結局、提示された金額は、僕たちが辺境で一年かけて稼ぐ額を軽く上回っていた。
「……おまけに、君たち。これだけの討伐と採取を二人だけでやったというのか? ギルドの規定により、貢献度があまりに高すぎる。……ランクを上げさせてもらうよ」
手渡された冒険者プレートの色が、鉄色から「銀色(ランクC)」へと変わっていた。
13歳でCランク。
ギルドの中が少しざわついたけれど、僕たちはそれどころじゃなかった。
「エル、お金! すごいよ、これでタルトが何個買えるかな!」
「おう! 早く行こうぜ、エバー。俺、腹減って死にそうだ」
僕たちはホクホクの懐具合で、女子グループに教えてもらった『子猫の足跡亭』へと急いだ。
「いらっしゃいませ」
カランカラン、と小気味よい鈴の音が響く。
店内は甘いバターと果実の香りで満たされていた。女子生徒たちが熱っぽく語っていた通り、ショーケースには宝石のようなタルトが並んでいる。
「……なぁ、エバー。これ、本当に食い物か? 飾りじゃないのか?」
エルが大きな体を縮こまらせて、見たこともないほど緊張した面持ちでショーケースを覗き込んでいる。
僕たちは一番人気の『季節のベリーと黄金カスタードのタルト』を注文した。
「……いただきます」
フォークを入れ、一口。
その瞬間、僕の脳内に幸せな衝撃が走った。サクサクの生地、とろけるようなクリーム、そして弾ける果実の酸味。
「おいしい……。王都の高級スイーツってこんなに凄かったんだ……」
ふと隣を見ると、エルが固まっていた。
目を見開き、フォークを口に咥えたまま、微動だにしない。
「エル……? 大丈夫?」
「………………なんだこれ」
エルの声が震えている。
「なんだこれ!! 旨すぎるだろ! 俺が今まで食ってた干し肉や堅パンはなんだったんだ!? 噛まなくても溶けるぞ! 甘い、甘いのに止まらない!」
それからのエルは凄まじかった。
一枚、また一枚と追加注文を重ね、最後には「このお店の全種類、一つずつ持ってきてくれ!」と叫びそうな勢いだった。
野性味あふれるドラゴンスレイヤーが、小さなフォークを器用に使い、クリームを一滴も残さず掬い取っている姿は、シュールすぎて笑いが込み上げてくる。
「エバー、俺、決めたわ」
エルが真剣な顔で、最後の一口を名残惜しそうに飲み込んで言った。
「俺、もっと稼ぐ。このタルトを毎日、いや三食これでもいいくらい食うために、もっと魔獣を狩る。王都に来て、初めて『目標』ができたぜ」
「……目標がスイーツなんだね。まあ、僕も賛成だけど」
僕たちは、パンパンに膨らんだお腹と、さらにパンパンになった夢を抱えて、夕暮れの王都を歩き出した。
辺境の『神童』と『野生児』。
僕たちの王都の学園生活は、高級タルトの甘い香りと共に、ようやく本当の意味で始まった気がした。




