第5話 アッサママからの帰還
三日目の朝、結界を解くと同時に、女子グループのテントから晴れやかな顔をした彼女たちが飛び出してきた。
「メイル君、エル君! 本当にありがとう、昨日は一度も目が覚めなかったわ!」
「こんなに快適な実習なんて初めてよ。あのタルトのお店の情報、もっと詳しく教えるわね!」
昨日の疲れが嘘のように元気な彼女たちに囲まれて、僕は少し照れくさかった。一方、遠巻きに僕らを見ている男子たちは、幽霊みたいな顔で地面を引きずりながら荷物をまとめている。
「……あいつら、帰り道で力尽きないか?」
「ほっとけ。それよりエバー、帰るまでが実習だ。手ぶらで帰るなんて、辺境の恥だぞ」
エルの目が獲物を探す獣のように鋭くなった。僕も頷く。
せっかく王都から遠いアッサママの森まで、転移陣という高価な手段で連れてきてもらったんだ。往復の魔力代(僕らが出したわけじゃないけど)を考えれば、手ぶらで帰るのはあまりにもったいない。
「わかってる。……あ、エル。あの岩陰に生えてるの、『月光苔』じゃない?」
「マジか! 暗所で光る高級塗料の原料だろ。よし、俺が周囲の警戒をする。エバーは丁寧に採取しろ」
僕たちは、帰り道の行軍中も「余力たっぷり」で周囲を探索した。
他の生徒たちが一歩歩くごとに溜息をつく中、僕とエルだけがひょいひょいと列を外れては、崖の上の希少な薬草を摘んだり、倒木の下に隠れた「黒トリュフ」に似たキノコを掘り起こしたり。
「エバー、見てくれ。これ『センチピードの殻』の変異種だ。色が銀色だぞ!」
「すごい、それは錬金術ギルドで高値がつくよ! 傷をつけないように、僕の空間収納庫にしまっておくね」
僕たちの背嚢は、帰路に着く頃にはパンパンに膨らんでいた。
中身はどれも、王都の市場では滅多に見かけない、あるいは目が飛び出るような高値で取引される「森の宝物」ばかりだ。
「おい、君たち……。少しは疲れというものを知らないのか?」
隣を歩く教官が、呆れたように、あるいは感心したように声をかけてきた。教官の背負っている荷物より、僕たちの獲物の方が明らかに価値が高いことに気づいているんだろう。
「疲れましたよ、教官。……どのスイーツから食べようか迷って、頭がパンパンです」
僕が真顔で答えると、教官は「……そうか。勝手にしろ」と力なく笑って前を向いた。
ようやく転移陣の広場まで戻ってきたとき、僕とエルは顔を見合わせて、小さくハイタッチをした。
重い足取りでゲートをくぐるクラスメイトたちを尻目に、僕たちは頭の中で「今回の素材を売ったお金で、どれだけ贅沢ができるか」を計算して、ホクホクとした気分で王都への帰路に就いた。
アッサママの森。
美味しい獲物も獲れたし、スイーツの情報も手に入ったし、お小遣いもたっぷり。
僕にとって、最高の「初実習」になったのは間違いない。




