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エバー・メイルの領地改革  作者: 小兎


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第7話 第6王子のルヴィア様



王都へ戻ってきてからというもの、僕とエルの周囲は急に騒がしくなった。


どうやら、


「一年生の庶民コンビがアッサママの森でBランクのアース・ベアを討伐した」


だとか、


「わずか一回の実習でCランク冒険者になった」


だとか、


そんな話が尾ひれ背びれを付けて学園中に広まってしまったらしい。


正直なところ、僕たちはそんな噂よりもタルトの方が気になる。


しかし周囲はそう思ってくれない。


「メイル君、僕の派閥に入らないか?」


「君の魔法は優秀だ。卒業後の進路も保証しよう」


「エル。我が公爵家の騎士団に来い」


「その剣なら将来は騎士団長も夢じゃないぞ」


登校するたびに誰かが話しかけてくる。


その内容も大体似たようなものだ。


僕の魔法。


エルの剣。


それを欲しがる人達。


一見すると親切そうに見えるけれど、その目は僕たち自身じゃなくて、僕たちの能力だけを見ている気がした。


その反対に。


「平民風情が」


「少し活躍したくらいで調子に乗るなよ」


そんな陰口も聞こえる。


廊下ですれ違った時に肩をぶつけられたり、机の中に紙屑を入れられたり。


露骨ではないけれど、確かな悪意。


昼休み、エルがげんなりした顔で机に突っ伏した。


「……エバー、俺、もう限界。あいつらタルトの邪魔ばっかりしやがる」


「エル、落ち着いて。剣を抜いたら即退学だよ」


逃げるように向かったのは、学園の巨大な図書室だった。

グランド王立学園の図書室は巨大だ。三階建てで中央に風通しの吹き抜けがある作りだ。


ここなら静かだし、利用者が少ない奥の資料室なら誰にも邪魔されない。


……はずだったんだけど。


「おや」


静かな声が聞こえた。


「珍しいね。ここに一年生が来るなんて」


振り向いた瞬間僕は思わず言葉を失った。


綺麗だった。銀糸のような髪。柔らかな笑み。透き通るような青い瞳。

ただ美しいだけじゃない。そして一目で「あ、この人、僕らとは住む世界が違う」と分かるオーラがあるにもかかわらず、不思議と安心するような雰囲気がある。


「あ、すみません。すぐ静かにしますから……」


僕がぺこりと頭を下げると、その人は手にした本を閉じ、ふわりと微笑んだ。


「いいんだよ。君たちが例の『アッサママの英雄』だね? 噂は聞いている。僕は第六王子のルヴィア。一学年上だよ」


「「えっ、王子様!?」」


僕とエルは同時に叫びそうになって、慌てて口を押さえた。王族なんて、僕らからしたら雲の上の存在だ。


慌てて口を押さえる。


王子様!?


本物!?


僕とエルはほぼ同時に立ち上がった。


「し、失礼しました!」


「申し訳ありません!」


「ははは」


ルヴィア様は楽しそうに笑った。


「そんなに緊張しなくていい」


「いや無理です!」


僕とエルの声が綺麗に重なった。


ルヴィア様はさらに笑った。


「息ぴったりだね」


「そんなにかしこまらなくていい。君たちの『実戦主義』な戦い方、僕は嫌いじゃないんだ。嫌じゃなかったらアッサママでの話し聞かせてくれる?」


ルヴィア様はそう言って、僕たちの向かいの席に座った。


しばらく話しているうちに、僕は気付いた。


「アース・ベアを無傷で仕留めたんだって?」


「はい」


「普通は毛皮が傷だらけになるんだけどね」


「売値が下がるので」


「なるほど」


ルヴィア様は感心したように頷いた。


その目は能力だけを見ていない。


なぜそうしたのか。


どう考えたのか。


そこまで見ている。凄いな。


話題は自然と試験の話になった。


「そういえば君たち」


ルヴィア様が言った。


「もうすぐ学期末試験だけど準備はどうかな?」


僕とエルは顔を見合わせた。


「一応勉強はしてます」


「でも試験範囲広いんだよなぁ」


するとルヴィア様が少し苦笑した。


「ああ」


「その顔は知らないんだね」


「何をです?」


「この学園の試験の傾向を」


そこから一時間、ルヴィア様は僕たちに付きっきりで勉強を教えてくれた。


僕たちは夢中になって話を聞いていた。


「そう。この学園の試験は、実力だけじゃなく『性格の悪いひっかけ問題』が多いんだ。例えば魔法学科の記述なら……」


どの教授が何を重視するのか。


「ここの教授は騎士団出身だから、実用的な術式を好むよ」とか、「戦術学科の筆記は、わざと負け戦の陣形を書かせて、そこからの逆転案を出させるのが定番だ」とか。


どういう問題を出すのか。


どんな解答を好むのか。


単なる答えではない。


考え方を教えてくれる。


エルですら途中から身を乗り出して聞いていた。


「なるほど!」


「そういうことか!」


「だから毎年同じところで点差が付くんですね!」


ルヴィア様は嬉しそうに頷いた。


「理解が早いね」


その一言だけで、なんだか勉強が楽しくなった。


僕らが辺境では絶対に知ることができなかった「学園の裏ルール」とかも、ルヴィア様はとても分かりやすく、そして優しく丁寧に授けてくれたんだ。


「……じゃあ、今日はこのくらいにしようか。試験、頑張ってね」


ルヴィア様はキラキラとした爽やかな風を残して、図書室を去っていった。

残された僕とエルは、しばらく呆然としていたけれど……。


「……ねぇ、エル。今の、見た?」


「あぁ。……エバー、世の中に、あんなに優しくてキラキラした人が本当にいるんだな」


「うん。なんか、後光が差してたよね。王子様なのに、僕らみたいな庶民に自分から話しかけてくれるなんて……」


「しかも、めちゃくちゃ教え方上手かったし。俺、あんなに勉強が頭に入ったの初めてだわ」


僕たちは、もらったノートを大切に抱えながら、帰り道を歩いた。


学園には僕らを利用しようとする人や、排除しようとする嫌な人もたくさんいる。でも、ルヴィア様みたいな「本物の貴族」だっているんだ。


「エバー、俺、次の試験頑張るわ。ルヴィア様にあんなに教えてもらったんだから、恥ずかしい点は取れねぇ」


「そうだね。試験でいい点を取って、またルヴィア様に報告に行こう!」


嫌な噂や勧誘で沈んでいた僕たちの心は、ルヴィア様という「救いの光」のおかげで、すっかり元通り……いや、それ以上にやる気で満ち溢れていた。

王都は怖い場所だと思っていたけれど、たまにはこんなに素敵な出会いもあるんだな。





学期末試験の結果発表当日。学舎の掲示板前は、まるで戦場のような騒ぎになっていた。


「嘘だろ……」

「魔法学科も戦術学科も、平民が独占してるのか!?」


ざわめく人混みをかき分けて最前列に向かうと、そこには僕とエルの名前が一番上に並んでいた。



【学年総合順位】


第一位 エバー・メイル (魔法学科)


第二位 エル (戦術学科)


「……やったね、エル! ルヴィア様の言った通り、あのひっかけ問題、本当に出たよ」


「おう! あの『騎士団流の陣形』の記述、対策してなきゃ白紙だったぜ。マジで助かったな」


僕たちが手を取り合って喜んでいると、背後からスッと、春の風のような清々しい気配が漂ってきた。


「二人とも、素晴らしい成績だね。期待以上の結果だよ」


振り返ると、そこにはキラキラと輝く笑顔のルヴィア様が立っていた。周囲の生徒たちが一斉に道を開け、驚愕の表情で固まる。


「ル、ルヴィア様……! おかげさまで、こんなに良い点が取れました!」


僕が興奮気味に報告すると、ルヴィア様はふふっと喉を鳴らして笑い、僕の頭にそっと手を置いた。


「よく頑張ったね、エバー。君の理論構成は完璧だったよ」


「えへへ……」


続けてルヴィア様は隣で照れくさそうにしているエルの頭も優しくけれどしっかりと撫でた。


「エルも、あの難解な実戦問題をよく解き明かした。感服したよ」


「はい!ありがとうございます!」


エルも褒められて、尻尾がブンブン振られている幻覚が見えるようだ。


王子様に頭を撫でられるなんて!


ルヴィア様の手は温かくて、まるでお兄さんに褒められているような、不思議と安心する心地よさがあった。



その光景を見た周囲がざわめく。


「あれは……」


「第六王子殿下?」


「まさか」


「二人とも殿下のお気に入りなのか?」


ざわめきは一気に広がった。


そして。


掲示板の影や柱の陰から、僕たちを「利用してやろう」と狙っていた上級生や貴族たちが、一様に青ざめた顔で引き下がっていくのが見えた。


「おい、見ろよ……あの二人、第六王子直々のお気に入りかよ」


「あんなに親しげに……。迂闊に手出ししたら、皇族を敵に回すことになるぞ」


「今は様子を見よう。あんな『化け物コンビ』にルヴィア様がついてるんじゃ、勝ち目がない……」



どうやらルヴィア様は僕たちを守るために、わざと人前で声をかけてくれたらしい。


どうやら、ルヴィア様が公衆の面前で僕たちを褒めてくれたのは僕たちを変な勧誘や嫌がらせをしようとしていた人たちから守るために、わざと人前で声をかけてくれたらしい。


「さて」


ルヴィア様が微笑んだ。


「首席と次席のお祝いにスイーツお店にでも行こうか? 僕が奢ってあげるよ」


「「えっ、本当ですか!? 行きます!」」


僕とエルの声が重なる。


ルヴィア様は楽しそうに笑った。


最初学園は怖い場所だと思った。


でも美味しいスイーツを教えてくれた友達と、優しくて素敵な先輩。こんな素敵な出会いもあるのは悪くない。


そう思えるくらいには、僕たちの学園生活は少しずつ楽しくなってきていた。





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