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エバー・メイルの領地改革  作者: 小兎


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第49話 小さな願いはみんなの為に


北のジジーアスでの成功は、王国全土に燎原の火のごとく伝わった。

「不可能」が「可能」に変わった瞬間を目撃した大人たちの動きは、驚くほど速かった。


「次は俺の故郷、キョウオジンだ! エバー、準備はいいか!」


エルの気合に応えるように、プロジェクトは西のキョウオジン、南のアッサママ、そして東のキノババへと次々に展開していった。


西のキョウオジンでは、溢れ出る熱気を「冷気」へと反転させ、エルが夢見た「巨大冷蔵庫」と「一年中涼しい家」が実現した。灼熱の岩山に、涼やかな風が吹き抜ける。


南のアッサママでは、過剰な湿気と魔素を「除湿と防虫」の結界エネルギーへと変換し、人々が害虫や疫病に怯えることなく暮らせる衛生的な街が造り上げられた。


そして東のキノババ。ダッファーデンとの緊張が続く国境の最前線では、エルの発案した「吹き上げ式」が最も強固な形で実装され、侵入を許さない鉄壁の魔素防壁が空を覆った。


それぞれの土地にはそれぞれの「理」がある。僕たちはヴィクター先輩やジルゼ、そして王宮の専門家たちと共に、各地の環境に合わせて回路の細部を調整し、最適化していった。


かつては「耐える場所」でしかなかった辺境が、一つ、また一つと、魔導技術によって「豊かに暮らせる場所」へと塗り替えられていく。


一千六百年もの間、誰も成し遂げられなかったグランド王国の再編。


僕たちが13歳の時に放った小さな一石は、今や王国全土を包み込む巨大な「円環」となって、揺るぎない平和の形を作り上げていた。




「再編の円環リ・サーキュレーション」プロジェクトが王国の全辺境に普及し、その真の完成を見たのは、国家事業として動き出してから七年目の春のことだった。



王宮の「黄金の間」では、建国以来最大級とも言われる完成祝賀パーティが催されていた。シャンデリアの光が降り注ぐ中、かつて泥にまみれてアッサママの森を駆け、ジジーアスの雪原で震えていた少年たちは、今や誰もが認める王国の英雄としてその中心にいた。


エバーとエル、二十一歳の春。


「――エバー・メイル、並びにヴィクター・フラン。両名に子爵の爵位を授与する」


国王陛下の厳かな声が広間に響き渡る。

平民出身の僕が子爵。かつての自分なら腰を抜かしていたかもしれない。けれど、七年間にわたって積み上げてきた実績と、故郷から届く「温かくなった」という感謝の手紙の重みが、僕の背筋を真っ直ぐに伸ばしていた。


「――エル、並びにジルゼ。両名に男爵の爵位を授与する」


隣では、立派な正装に身を包んだエルが、少し窮屈そうにしながらも誇らしげに胸を張っていた。頭二つ分の身長差は相変わらずだが、その眼差しには王国を守り抜いた男としての揺るぎない自信が宿っている。


「子爵様か……。遠いところまで来たもんだな、エバー」


エルが小声で囁き、僕は苦笑しながら頷いた。


「そうだね。でも、僕たちの円環はまだ回り始めたばかりだよ」


祝杯の鐘が鳴り響く。


会場には、統括として辣腕を振るった王太子殿下、各地で陣頭指揮を執ったルヴィア様の兄上たち、そしてジジーアスで新しい統治の形を完成させたルヴィア様とリリエンヌ様の姿もあった。


十三歳の春、王立学園の門を叩いたあの日。

僕たちが抱いた小さな願いは、七年の歳月を経て、グランド王国の歴史を塗り替える巨大な輝きとなった。






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