第50話 その後のエバーとエル
王都での華々しい叙爵式から数ヶ月。
王国中の人々が「救国の若き貴族たちは、今頃王宮の要職で優雅な生活を送っているのだろう」と噂し合っていた頃。
二人は、標高五千メートルを超えるアルバス山脈の断崖絶壁にいた。
「――おいエバー! 重力魔法、あと三センチ左だ! 根っこが岩に食い込んでて抜けねぇ!」
「やってるよ! でもこの高度の魔素、重力の減衰が早すぎるんだってば!」
切り立った岩壁にしがみつき、叫び合っているのは、新進気鋭の子爵と男爵である。
プロジェクトの完成により、辺境の地上からは「狂暴な魔素」が消え、平和が訪れた。それは素晴らしいことだったが、魔導具師としてのエバーにとっては一つだけ副作用があった。――最高品質の変異素材が、魔素の吹き溜まりである「山頂付近」まで登らなければ手に入らなくなってしまったのだ。
「……ふぅ。よし、採取完了。これでまた村の温室を二棟、拡張できるよ」
エバーは手に入れた光り輝く高山植物を空間収納に放り込み、泥だらけの顔で笑った。
彼は叙爵後、故郷メイル村の村長に就任していた。私財のすべてを投じ、村を王国で最も快適な理想郷へと作り替えることに心血を注いでいるのだ。
「にしてもよ、エバー村長。子爵様ともあろうお人が、なんでこうやって山登りして小銭稼ぎしてんだ?」
エルが崖に腰を下ろし、水筒を煽りながら呆れたように笑う。
「しょうがないだろ。温室の維持費も、最新の魔導配管の買い替えも、お金は使えばなくなるんだから。……それに、こうして冒険者をやるのも、悪くないだろ?」
「ははっ、違いねぇ。王宮のパーティで着慣れねぇ服着てるより、こっちの方がよっぽど性に合ってるぜ」
エルの背後では、追い出された魔素が「吹き上げ式装置」によって紫色のオーロラとなり、空を彩っている。その下には、春のように温かい光を放つメイル村の街灯が見えた。
「さあ、帰ろうエル。明日は村の浴場の点検もしなきゃいけないんだ」
「おうよ。帰ったら、その『最高品質』の素材で、俺の大剣のメンテナンスも頼むぜ、村長様!」
二人の笑い声が、冷たい、けれどどこか優しい山の風に乗って響いていく。
国の未来を変え、歴史に名を刻んだ二人の物語。
その終幕は、かつての放課後と変わらない、騒がしくも輝かしい日常の中にあった。
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