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エバー・メイルの領地改革  作者: 小兎


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33/50

第33話 ボクの考えた最強理論(仮)は既に・・・


ルヴィア様に「よしよし、いい子だね」となだめるように慰められ、僕はようやくスンとなって起き上がった。顔の火照りはまだ引かないけれど、なんとか冷静さを取り戻してルヴィア様の前の席に座る。


「……すみません、お見苦しいところを」


「いいよ、エバーらしい。……それで、実地研修を経て、エバーは何を考えたの?」


ルヴィア様が机に肘をつき、真剣な眼差しで僕を促した。僕は頭の中にある「フェルメール領の円環」と「ジジーアスの防壁」の図を必死に整理しながら言葉を紡ぐ。


「……ジジーアス……いえ、辺境全体の環境をどうにかできないかと考えたんです。特に、アルバス山脈からの魔素を」


僕は手帳を開き、フェリケ領で見た魔導灌漑システムの概念図を指差した。


「中央から流れてくる清浄な霊脈は、建国の『楔』のシステムを応用すれば、きっと制御できると思うんです。でも、問題はアルバス山脈側からの魔素だと思うんです。フレアさんは、山脈に流した魔素がフィードバックされてぶつかり合っていると言っていました」


「そうだね。山脈が巨大な反射板のように魔素を押し返してくる。それが辺境を過酷にしている元凶だ」


「はい。だから、もしその『押し返してくる魔素』を、衝突する前にフェルメール領のように『循環』のラインへ逃がすことができれば……ジジーアスの寒波も、キョウオジンの灼熱も、もっと和らげることができるんじゃないかって」


そこまで一気に話すと、ルヴィア様は満足げに深く頷いた。


「なるほど、衝突を避けるためのバイパス理論か。エバー、残念ながら君が今言ったことは、百年前に提唱して失敗しているんだ」


「えっ……失敗、したんですか?」


ルヴィア様は、僕の手帳に描かれた概念図を指先でなぞりながら、静かに語り始めました。


「その論文の著者はね、君と同じように、山脈から跳ね返ってくる魔素を『巨大な円環』で受け流そうとしたんだ。でも、二つの大きな壁にぶつかって挫折した」


ルヴィア様はその論文を思い出すように話してくれた。


「一つ目は、『流速の非線形性』だ。中央から流れる霊脈は整っているけど、山脈からフィードバックされる魔素は、天候や大気の揺らぎで秒単位で性質が変わる。百年前の演算能力では、その荒れ狂う魔素を『循環』のラインに繋げるための精密な同期が不可能だったんだ。無理に繋げようとすれば、循環システム自体が内部から破裂してしまう」


僕は唾を飲み込みました。計算が追いつかなければ、バイパスはただの爆弾になる。


「そして二つ目は、『バイパスの素材強度』。山脈直下の魔素はあまりに高濃度で、既存の魔導材では数日と持たずに摩耗し、塵に還ってしまう。循環させるための『器』が、魔素の暴力に耐えられなかったんだよ」


ルヴィア様は一旦言葉を切ると、僕の目を真っ直ぐに見つめました。


「つまり、この理論を実現するには、『リアルタイムで変化を予測する超高速演算』と、『超高濃度魔素に耐えうる未知の素材』……この二つが不可欠だった。当時の学問では、これ以上は『空想の域を出ない』として、この論文は棚の奥に追いやられたんだ」


「……演算能力と、素材」



演算なら、ヴィクター先輩の研究している論理回路がある。素材なら探せば新しい発見があるかもしれない。


「百年前は空想だった。……でも、今はどうだろうね?」


ルヴィア様のその一言が、僕の胸の中に小さな、けれど消えない火を灯した。


「やっぱり、もう誰かが考えていたことだったんですね。……でも、とりあえずその百年前の資料があれば読み込みます。それを踏まえて、また別の方法を考えてみます」


僕が意気込むと、ルヴィア様は立ち上がって後ろの書架から一冊の分厚い本を取り出した。


「いい心がけだね。その資料ならこれだよ。これは写本だから、図書室の外への貸し出しも可能だ」


「ありがとうございます! 早速借りて、隅から隅まで読み込みます」


僕が宝物を受け取るようにその冊子を抱きしめると、横でずっと胃袋を押さえていたエルが、ようやくといった様子で立ち上がった。


「よし、決まりだな。行こうぜエバー、俺もう腹減って死にそうなんだよ。頭使った後の肉は最高だぞ」


「ふふ、あまり根を詰めすぎないようにね」


ルヴィア様は僕たちのやり取りを微笑ましく眺めていたけれど、ふと、その表情から笑みが消え、声のトーンが一段低くなった。


「……あと、これはまだ公にはされていない情報だけど。……近いうちに、キノババの国境を閉じることになりそうだ」


「えっ……国境を、閉じる……?」


帰ろうとしていた僕の足が、止まった。


東のキノババ。


それは大陸とグランド王国を繋ぐ、唯一の陸路の窓口だ。そこを閉じるということは、王国が大陸に対して完全に門を閉ざす――つまり、それほどまでの「事態」がダッファーデンで起きているということだ。


「詳しくはまた追って伝えるよ。君達は関わってるから先に伝えるけど、他言無用で頼むよ」


ルヴィア様の言葉が、ずしりと重く心に響いた。


そしてこの日から10日後。

グランド王国歴1603年5月1日グランド王国国王陛下グランド王国国王 アルバート・ラ・フォン・グランドの名の元にキノババ閉鎖の布告が発表された。




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