第22話 王都に帰還
キノババの街に、本当の朝が来た。
辺境伯館の地下転移室を王国騎士団が制圧したあと、街の混乱は最小限に抑えられた。
実弟になりすましていた「偽物」は捕縛され王都に連行され尋問されているらしい。、
辺境伯様が救出された事実は、領民には「御領主様の病の完治には今しばらくかかるがいずれは完治する」という朗報として広まった。
背後にダッファーデン王国の影があることは、陛下やルヴィア様によって厳重に伏せられている。今ここで隣国の名を公に出せば、それこそ本当の全面戦争が始まってしまうからだ。
「……表向きは、平穏無事、か」
王都へ戻る馬車の中で、エルがぽつりと呟いた。
キノババの活気ある槌の音も、フローレンス領に再び植えられ始めた花の苗も、すべては危うい均衡の上に成り立っていた。しかしその平和を守るのにギリギリ間に合ったのは本当によかった。
王都グランヴェルの門をくぐると、再建中の尖塔が夕日に赤く染まっていた。
学園に戻れば、教官たちは何事もなかったかのように「自習」を終わらせ、日常の授業を再開している。僕たちの「休学」の理由は、建前上は「東部での学術調査」ということになっていた。
「エバー君、エル君! おかえりなさい!」
廊下でセレナに呼び止められた。彼女も故郷から戻り、再び学園生活を送っている。
「お父様から手紙が届いたの。……体調も良くなって、また庭を花でいっぱいにしようって。本当に、ありがとう」
彼女の晴れやかな笑顔を見て、ようやく僕の肩の荷が下りた気がした。
その日の放課後、僕たちはルヴィア様に招かれ、いつもの図書室……ではなく、例の王家御用達の老舗スイーツ店にいた。
「……今回の件、君たちの名前を公に出せなくて済まない。だが、陛下は君たちの功績を深く刻んでおられるよ」
ルヴィア様は、運ばれてきた新作のスイーツで僕たちを労ってくれた。
「……ダッファーデンの動きは止まった。彼らも、キノババの玄関口がこれほど早く奪還されるとは思っていなかっただろう。しばらくは静かになるはずだ」
「……だといいっすね。俺、しばらくはああいうのより魔獣狩ってたいです」
エルが豪快にタルトを頬張り、幸せそうに目を細める。
「ふふ、そうだね。……でもエバー、エル。世界は広い。今回見えた影は、ほんの一部に過ぎないんだ」
ルヴィア様の瞳の奥には、まだ消えない懸念が宿っていた。
「……まずは、明日からの通常授業だね。休んでた分、取り戻さないと」
「げっ。……エバー、そっちの助け舟も頼むぞ」
笑い合う僕たちの声が、王都の穏やかな夕暮れに溶けていった。




