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エバー・メイルの領地改革  作者: 小兎


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第1話 後編 学園到着~男子寮入寮

ひとしきり笑ったあと、僕たちは再び歩き始めた。


辺境の話。


魔物の話。


王都へ来るまでの話。


気付けば会話は途切れることなく続いていた。


不思議なものだ。


ついさっきまで僕は、知らない人に話しかけることすら躊躇していたというのに。


エルと話していると妙に気が楽だった。


貴族でもなければ偉ぶることもない。


思ったことをそのまま口にできる。


辺境出身同士というのも大きいのだろう。


そんなことを考えていると、エルがふと周囲を見回した。


「しかしデカいな」


「何が?」


「この壁だよ」


そう言われて僕も辺りを見る。


すると確かに妙だった。


さっきからずっと石壁の横を歩いている。


かなり前からだ。


「言われてみれば……」


「ずっと壁だよな」


「うん」


「どこまで続くんだ?」


「さぁ?」


二人して首を傾げながら歩く。


そして数分後。


ようやく理由が分かった。


「あ」


「お」


巨大な門が現れた。


左右に伸びる高い石壁。


その向こうに見える広大な敷地。


立派な鉄門には王家の紋章が刻まれている。


「グランド王立学園」


門の上に掲げられた文字を見て、僕は思わず呟いた。


なるほど。


さっきから歩いていた壁は学園の外壁だったらしい。


「デカいわけだ」


「デカいねぇ」


僕たちは揃って感心した。


閉ざされた門の脇には小さな窓が設けられていた。


エルが迷いなく近付く。


僕も慌てて後を追った。


コンコン。


窓を軽く叩く。


しばらくして内側から声が返ってきた。


「ご用件は?」


落ち着いた男性の声だった。


「本年度入学のエバー・メイルです」


「同じく本年度入学のエルです」


すると小窓が開いた。


中から年配の門衛が顔を覗かせる。


「入学許可通知書をご提示ください」


言われるまま荷物を開く。


辺境伯様から預かった大切な書類だ。


折れたり濡れたりしないよう何重にも包んで保管していた。


慎重に取り出して渡す。


門衛は二人分を確認すると頷いた。


「確認しました」


そして小窓を閉じる。


「門を開けますので少々お待ちください」


僕たちは素直に待った。


やがて――


ゴトリ。


重い音が響く。


だが見た目ほど大きな音ではない。


巨大な門にしては驚くほど静かだった。


ゆっくりと隙間が開く。


人が一人通れる程度の幅だ。


「行くか」


「うん」


先にエルが入り、続いて僕がくぐる。


その瞬間だった。


背後で門が閉まる音が響く。


ガシャン。


それほど大きな音ではない。


だが不思議と外界と切り離されたような感覚があった。


僕は思わず振り返る。


今まで歩いていた王都の街並みが、もう遠く感じられた。


「ここが……」


王国最高峰の学び舎。


グランド王立学園。


胸の奥が少しだけ高鳴った。


門衛は事務的な口調で説明を続ける。


「正面に見える建物が学舎です」


僕たちは視線を向けた。


広場の向こうに堂々とそびえる巨大な建物。


夕日に照らされた白亜の校舎は、まるで城のようだった。


「男子寮は左手です」


今度は左を見る。


こちらも十分立派だ。


「右手奥に見える建物が女子寮になります」


確かに見える。


こちらも男子寮に負けない大きさだ。


そして門衛は少しだけ声を低くした。


「女子寮は男子禁制です」


「はい」


「許可なく立ち入った場合は即退学となります」


「「はい」」


僕とエルの返事がぴたりと揃った。


怖い。


非常に怖い。


近付かなければ問題ないだろう。


うん。


絶対に近付かないでおこう。


「男子寮には寮監督官のアッシリア・モルゲン様がおられます。指示に従ってください」


「「はい」」


説明を終えると門衛は小窓へ戻っていった。


僕たちは噴水広場を横切る。


中央の噴水は夕日に照らされて金色に輝いていた。


学園内は驚くほど静かだ。


まだ入学式前だからだろう。


人影はほとんど見当たらない。


やがて男子寮へ到着した。


石造りの三階建て。


四隅には小さな塔まで備わっている。


どう見ても寮というより小さな城だ。


「辺境の役所より立派じゃねぇか?」


「たぶん領兵隊舎よりも立派だよ」


そんな感想を言い合いながら中へ入る。


扉を押し開くと広々としたロビーが現れた。


正面には階段。


右手には受付らしきカウンター。


だが窓にはカーテンが閉まっている。


代わりに札が立てられていた。


【新入生及び用件のある者はベルを鳴らすこと】


「なるほど」


エルは迷わずベルを叩いた。


チーン!


澄んだ音がロビーに響く。


しばらくするとカウンターの奥で物音がした。


カーテンが開く。


そして窓も開いた。


現れたのは三十代くらいの男性だった。


眼鏡を掛けた真面目そうな人物である。


「君たちは?」


「本年度入学のエルだ」


「僕はエバー・メイルです」


二人揃って入学許可通知書を差し出す。


男性は名簿と見比べながら確認した。


やがて頷く。


「確認しました」


そして穏やかな笑みを浮かべた。


「ようこそグランド王立学園へ」


その一言に少しだけ実感が湧く。


本当に入学したのだ。


「私は寮監督官のアッシリア・モルゲンだ」


モルゲン監督官は説明を始めた。


「君たちの部屋は北棟三階五号室と六号室」


どうやら隣室らしい。


エルと顔を見合わせる。


少し安心した。


「朝食は五時から八時。夕食は十七時から二十時。時間を過ぎると食堂は閉まる」


「はい」


「食堂は正面の扉の先だ」


「はい」


「制服と教科書は部屋に用意してある。浴室とトイレは各部屋備え付け」


僕は少し驚いた。


寮なのに共同ではないらしい。


王都の学校は凄い。


「購買は朝七時から八時、夕方十七時から二十時まで」


説明は続く。


「門限は二十一時。やむを得ない場合は必ず連絡すること。私的外泊は三日前までに申請」


そして最後に尋ねた。


「何か質問は?」


「分からないことがあったらここで聞けばいいのか?」


エルが聞く。


「その通りだ」


モルゲン監督官は頷いた。


僕も質問しようとして――


止まった。


部屋番号。


北棟。


三階。


五号室。


……。


…………。


どこだろう。


僕はそっと手を挙げた。


「あの」


「何かな?」


「北棟三階五号室って、どうやって行けばいいんでしょうか?」


一瞬。


ロビーが静かになった。


モルゲン監督官が瞬きをする。


エルもこちらを見る。


僕は首を傾げた。


何か変なことを言っただろうか。


「……階段を上がって右だ」


「ありがとうございます」


僕は素直に礼を言った。


そして歩き出す。


三歩進んだところで。


「そっちは南棟だ」


エルの声が飛んできた。


「あ」


振り返る。


確かに反対方向だった。


モルゲン監督官が眼鏡を押し上げる。


エルは吹き出していた。


僕は静かに来た道を引き返した。


……どうやら僕は、自分で思っていた以上に方向音痴らしい。

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