第14話 王都学園二学期
「……エバー、俺、もう文字が二重に見える」
「弱音を吐かないでエル、あと三日で王都に着いちゃうんだから!」
豪華な馬車の内装は、いまや参考書と魔導理論のレポート用紙で埋め尽くされていた。
ルヴィア様の「家庭教師」は、辺境伯騎士団のブートキャンプとは質の違う地獄だった。
戦闘で魔力を使い果たすのは慣れたけど、歴史の年号や複雑な術式計算で脳の魔力回路を焼き切られるのは初めてだ。
「ふふ、そこは公式が違うよ。やり直しだね」
ルヴィア様のキラキラした笑顔が、今はフロスト・ドラゴンのブレスより冷たく刺さる。
寝る間も惜しんでペンを走らせ、気がつけば馬車は王都の門をくぐっていた。
そして迎えた、二学期初日の実力判定試験。
「……おい、あいつら見ろよ」
「夏休みの間に、何があったんだ……?」
教室に入った瞬間、クラスメイトたちが一斉にざわついた。
自分でも自覚はある。一週間の馬車旅での猛勉強(という名の拷問)に加え、ジジーアスで死線を潜り抜けたせいで、僕たちの纏う空気は「学生」のそれを完全に逸脱していた。
エルの制服は、肩周りが筋肉でパツパツになり、鋭い眼光は獲物を探す獣そのもの。
僕は僕で、魔力を極限まで効率化する癖がついたせいで、無意識に周囲の魔力密度を書き換えてしまっているらしい。
試験開始の合図と共に、僕たちは猛然とペンを走らせた。
ルヴィア様に叩き込まれた「傾向と対策」は完璧だった。
(……あ、これ、ルヴィア様が『出なかったらパフェ奢ってあげる』って言ってた難問だ。……本当に出た!)
ペンが紙を削る音が、まるで剣劇のように教室に響く。
隣の席のエルなんて、解答用紙を睨みつける顔が怖すぎて、監督官の先生が三回くらい様子を見に来ていた。
試験明け。廊下の掲示板に結果が張り出された。
【二学期実力判定試験・総合】
第1位:エバー・メイル(全科目満点)
第2位:エル(戦術理論・実技満点)
「「……勝った」」
僕とエルは、掲示板の前で力強く拳を合わせた。
その背後では、僕たちを妬んでいた上級生たちが
「……あいつら、夏休みに禁忌の儀式でもしたんじゃないか?」と戦々恐々としながら距離を取っている。
「おめでとう、二人とも。私の指導が良かったかな?」
人混みを割って現れたルヴィア様が、満足げに僕たちの頭を撫でてくれた。
周囲の「バケモノを見るような目」が、皇子様が登場したことで「崇拝」に近いものに変わっていく。
「さあ、お祝いに行こうか。例のパフェのお店、新作が出たらしいよ」
「「行きます!!」」
僕たちの二学期は、またしても甘い香りと、そしてさらに激しくなりそうな予感を孕んで幕を開けた。
ジジーアスの寒風で鍛えられた僕たちにとって、王都の「地獄」なんて、美味しいスパイスのようなものだ。
……たぶん。




