390.地獄の花とたばこの一族。
仮称「賢者」の延命のために犯人達が行っていたのは、何もシオリの誘拐だけではない。
むしろ、地獄の花の生薬を使って異界とこの世界を繋げる理由こそが、その賢者の延命に通じる手段の捜索のため。
もしくは、賢者の知識に変わる自分たち異界にルーツを持つ人間たちが社会で優位に立てる方法を手に入れるためだった。
この情報をもたらしたのは、昨晩ツカサ達が唯一確保する事が出来た、亀蛇が流入してくるほどの世界の罅を作った男たちの内の一人。
日のでる時間にようやく意識を取り戻したので尋問をし、地獄の花の生薬を飲んだ他の二人が衰弱死したと教えると、生き残った男はそんなつもりはなかったんだと、自分はこのままでは殺されてしまうかもしれないから助けて欲しいと、クロノス社と警察に取引を持ち掛けた。
知っていることはあらかた話すので、どうかかくまってほしいという男。
クロノス社はすでに高校で地獄の花の栽培をしていた男を捕縛し、やはり保護という名目でかくまっているので問題はなかった。
流石にそこまでは説明しないが、昨晩の仕事でサトルが大怪我をしただけの成果はあったのだと、ユカリはシグレとアオハルにも分かるように話した。
一通り相手側の犯行理由と思われる話をした後、ユカリは苦い表情でつぶやく。
「多分地獄の花に付いて知識継承してる人以降の人材が育ってないんだよね。じゃないと固執する意味がないし……」
理由としては第二次世界大戦敗北後に日本での魔法、魔術に対しての規制をGHQが行ったことがあげられるだろう。
その時に当時魔法に必要な薬草類の生産をしていた一族は、その仕事を終え、たばこ葉生産への本格的な転換をしていたはずだ。
黒江家が手を引いたので、詳しい記録は以降は残っていないが、それでも一部の老人たちはたばこの一族を覚えていた。
じい様たち朝っぱらから叩き起こして話を聞いたので、相当に怒られたけどねえ、とユカリは内心苦笑する。
「つまり、その問題の薬の作り方を知っていて、しかもそれを人に使わせることに躊躇の無い、倫理観の死んでいる老人の延命のために、私を誘拐しようとしていた、という事ですか?」
自分の誘拐されかかった理由を確かめるシオリに、ユカリはハッキリとは頷けなかった。
「たぶん?」
「はっきりしないんですね」
「相手取ってる人たちが一枚岩じゃないって言うかさあ」
黒江家の老人たちの話や、確保した二人の男たちに話を聞いたところ、合志の異界にルーツを持つ一族ではなく、たばこのと呼ばれる者たちが事の主導をしているかもしれないとの話だったが、そのたばこの一族は一方的な命令も多く、ただ確かに金払いは良いので信頼を得ていたと言う。
賢者とされる老人はこのたばこの一族の者で、本人も無理な延命であると分かっていて望んでいるという。
確かに、そうでなければ地獄の花の生薬の作り方のような危険な技術を、態々教えはしないだろう。
昨晩までは多少危険はあるが人が死ぬほどの者では無いと、そう使っている者たちも思っていた薬だったようだが、実際は世界に罅を入れるためには人の命が対価となる。
知っていたのはたぶんたばこの一族だけ、とのこと。
たばこの一族は何故か、他の異界にルーツを持つ一族の者たち以上に、自分たちの祖先の故地に執着しているようすだったという。
それが余りにも狂信的な様子だったので、一部の離反者が出ていたが、何故かその離反者たちはたばこの一族の説得で、それまで以上にたばこの一族に対して妄信的に協力するようになっていたらしい。
恐怖での支配なのか、それともまた別の魔法に関係する薬でも使っていたのか。
昨晩捕縛した男の話では、たばこの一族の方針に逆らうのは、危険な気がして従っていたが、流石にこれ以上は命が脅かされる。助けて欲しいと言っていた。
あの様子だと、家族か親族かが人質に近い状態だったかもなとユカリは思っていた。
怯えと諦めがないまぜになった暗い表情で、何でも話すが、できればたばこの一族に話したのが自分だとバレないようにしてほしい。何だったら死んだことにしてくれて構わないから、とも言っていたのだ。
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