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391.混ざりあわない泥

地獄の花の生薬の味は、タンポポコーヒーとい草の青汁を混ぜたような味。

飲めなくはないけどペットボトル一本分は罰ゲームだと思うのです。

 地獄の花の生薬による異界の流入が多発している件と、シオリ誘拐の犯人はたぶん同じ集団。

 しかしその集団は一致団結した一つの組織というよりも、一部の支配をする集団の下に、有象無象が集まったような印象。

 しかもその有象無象が、第二次世界大戦以前に黒江家とかかわりのあった一族たちだという。


 時間のスケール的にも、ミヤコには今ひとつピンとこない話だった。


 何よりそんなことをして、相手にはどんなメリットがあると言うのだろうか。


 確かに魔法の薬の知識というのは、すさまじいものがあるように感じるが、それを使う事で今ある現代社会のインフラや安全性を壊す理由が分からない。

 集団が規律を持って生活を営むからこそ、今の自分たちは社会インフラの恩恵を受けられるのだと、ミヤコは過去の災害を経て、言語化できないまでも実感していた。


 異界の流入によってその集団の生活が破壊されたら、自分たちが享受できるはずのインフラや現代社会の恩恵は間違いなく減ってしまう。

 減るだけならともかく、電子に障る虫のような物がもっと流入して来たら、生活も仕事も出来なくなるし、人の命にも直結するほどの支障が出るのは分かっていると言うのに。


「黒江家の庇護下にあった一族が今更そんなに困窮するものか?」


 アセビがそんな大それたことをしでかさなければならないほど困窮してる異界人いたかと首を傾げる。

 庇護下に無いとは言っても、監視をしていないわけではない。

 しかし戦前に黒江家の庇護下にあった一族は、熊本や周辺で異界の流入の起こりやすい土地であるせいか、二桁は軽く超えていた。

 九州内に範囲を広げれば三桁は軽く超えるほど、異界にルーツを持つ一族は多い。


「一つ二つの一族ってんじゃないよ、熊本県内にちらほらいる異界人ルーツの人たちだね。いつの間にか結託してたの。結託って言うか、さっきも話したけど利用されてるとも言えるけど……中には天草からって人もいたらしいんだけどね……死んじゃったけど」


 最後の一言はミヤコとアオハル以外の誰も聞こえないくらい小さく不明瞭だったが、二人の耳にはしっかりと届いていた。

 思わず互いの顔を見やるミヤコとアオハル。


 二人は朝見たニュースを思い出す。

 下江津湖で巨大な生物が異界から流入し、それにより一時的に現場の封鎖が行われ、深夜未明から早朝にかけて交通に滞りが出ている。

 巨大生物が自重で死亡したため遺骸処理のためまだしばらくは交通規制が緩和されることは無いと言っていた。


 そこには大怪我をした人間の事も、死人の事もまるで触れられていなかった。

 クロノス社でけが人が出た時は一般人の犠牲はないという報道のきまり文句で誤魔化すようになっているとも聞いているが、まさか死人が出ているとは思わなかった。


 ミヤコとアオハルが変な顔をしていると、シグレが気が付きアオハルのシャツの裾を引く。

 アオハルはその手をそっと抑えて、首を横に振って「後で話す」と答える。

 まだユカリとアセビの会話は続いている。


「ああ、そうなると難しいか……放置してたわけじゃないが、態々行動を強制できるほどの関わりないもんな」


「放置というか、普通に一般人として暮らしてもらってたよ。というかね、そもそも一般人だし、そこまで自分たちが異界人ルーツを持つことを気にする必要のない人たちが、自分たちは特別な人間なんだっていう驕りで勝手にまとまって一族化してただけの人たちだからね。GHQが解放して以降は暴走しないように黒江が面倒を見る根拠は何処にもなくなっちゃってねえ……見捨てられたなんて逆恨みもいい所だよ」


 どうやら黒江家に見捨てられたと思っていることも、今回の一連の事件の動機になっているんじゃないか、という事だ。


 異界の罅から世界をまたいで流入できる存在は、魂が強固である、という仮説がある今考えると、自分たちが強い存在であるという驕りが、最初に流入してきた祖先から受け継がれている可能性は無くもない。


 しかしユカリは相手は殆ど一般人だと言う。

 見捨てるも何も、黒江家の庇護を求めるという名目で、生活の保護を要求していた。


 戦後は少しは面倒を見た。

 しかし高度経済成長期には自分たちでしっかり成長産業へと食い込むことが出来ていたものが大半だった。

 たばこのと呼ばれる一族もそうだ。たばこ産業は本当によく儲かる仕事だったはずだ。


 それを今更見捨てたと言われてもと、ユカリは呆れたようにため息を吐く。


「特筆すべき異能がある人なんてのももうそんな産まれてないらしいし、せいぜいがちょっと感が良いとか、膂力が人よりもある方とかその程度の、一般異能持ち。熊本で普通に生活営んでる人たちのはずなんだよ。そもそも、今回の集団の中で特に積極的な人達って、さっき言った長老的な人、賢者を信仰するレベルで崇拝しててさ、その賢者を延命させるための手段として異界の流入で何か手に入らないかなってことでやってるみたいなんだよね。例えば不老長寿の秘薬とか? 日本の伝説で言うなら人魚の肉的な、ね」


 賢者の延命、その話を聞いてみれば、昨晩異界から流入してきた亀蛇などは、まさにその不老長寿の秘薬とも、人魚の肉とも親和性のある逸話のあった異界の生物。

 賢者の延命のために呼び出そうとしていたと言われて納得できる要素として、複数いた逃げた不審人物の落し物の中に、普通に持ち歩くには銃刀法違反になるような猟銃や鉈があったことから、可能性としてなくはないなとユカリは思っていた。


 地獄の花の生薬を使って賢者の延命できる偶然を得るための試みも、賢者の体調を考えれば今年で最後かもしれない、だから今年地獄の花を使った。

 そう生き残った一人は聞かされていた。


 地獄の花の生薬をペットボトル一本分飲んで気分が悪くなったり、倒れる可能性はあったが、命まで失うとは聞かされていなかったらしい。

本日の更新はこれだけ。

明日も一回更新です。


愛してない土地など他人からしたら、ただの肥やしに過ぎないので、毀損も汚染も気にしない。

よそから流入する存在ってそんなもん。

カミキリムシに木を枯らすなとも言えないし、ザリガニに草を切るなと言えないし、ビーバーに木を齧るなと言えないのです。

そういう生態の人たちなら、そう割りきって対処せねば。

小泉八雲も夏目漱石も、熊本好きじゃなかった。それはそう。

地元を愛する気持ちには、他所への執着や未練がノイズになる。他に愛するものがある人に、愛してくれとは言えないのです。


そう、熊本地震の時に出没した、神奈川ナンバー白ワゴン車のような奴らの事です。

私は奴らを許せない。

愛する地元を荒らしたよそ者を。


でも愛を複数持つ人もいるので、そういう人を誘惑したい熊です。よしなに。

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