386.夜のお仕事と後始末
アメンボが思わぬほど突然死んだ。
巨大生物が市街地へと繰り出す危険性を考慮して、かなり厳重な警戒と規制線を張っていた警察職員たちも、それらが一切用をなさなかったという報告に肩透かしを食らい困惑していた。
それでも深夜にもかかわらず仕事熱心な公務員は、ならばと警戒はしつつも後始末へと動き出す。
怪我人の有無を確認し、救急搬送しなくてはいけない。
目撃者への聞き込みも必要だ。
死者が出ているとの情報もあったので、巨大生物の出現の現場へ赴ける人員をそのまま遺体の収容や、情報の取得のために動かす必要がある。
何より現場にいち早く到着して対応をしていた協力企業の職員たちへの聴取がある。
クロノス社の社員ばかりが働いているように見えるが、その背後をしっかりと警察が支えていたからこそ、ツカサ達は自由に動くことが出来ていた。
そうして関係各所と連絡を取り合っていると、ユキの元に一通の長文のメッセージが届いた。
「あ、ユカリさんとサトルさんからです。大型の昆虫もだいたい二十度下回る温度での飼育は難しいので、普通に冷蔵庫くらいの気温になったら生存に問題が生じる可能性はあったかもって。でも巨大な生物ってことは、内部に体温保持してる可能性もあるし、一概には言えないけど、気になるなら内部の温度確かめてくれだそうです。大きい虫と考えるか、大きい生物と考えるかで変わるけど、外見的には保温のための体毛が見当たらない時点で、生息域がそこまで寒冷ではなくて、冷気こそが弱点って可能性を考えても良かったかなって……ちょ、サトルさん長い長い長い」
ユキがぎょっとした様子でスクロールしているので、思わず皆で覗き込む。
どこか世間話か蘊蓄の披露のようなその文章にツカサは苦笑する。
「わあ、ほんと長いな。って言うかこれ情報はサトルでもユカリの文章だね」
ユキの元に届いたのは、忙しなくしているツカサの手を止めないためと、サトルの代りにメッセージ文を打ち込んだのが唯カリだからだろう。
サトルからのメッセージが長文になりがちなのはいつものことだが、ユカリを通しての出力だったので、二人で会話して途中に出て来た話まで全部書いてしまっているようだった。
そう言えば虫の北限ってどこだっけ? 蝉とカブトムシの北限は日本の東北だって見たことあるな。雪虫って蝋で出来た毛が生えてふわふわだし、虫も寒いと毛が生えるのかな? 長いサトルのメッセージに、ツカサは取り留めのない事を考えてふふっと笑った。
「はあ、まあでも、対処が分かって良かった……次も同じのが現れた時に、対処のしやすさが変わるよね」
大山鳴動ネズミ一匹、とは言わないまでも、大立ち回りを予想してかなり気を張っていた割に、結果はあっさりしたものだった。
犠牲者は出ているが、彼らの死因は服毒だ。アメンボは直接関係はない。
だが今回のアメンボへの対応はツカサ達、クロノス社には大きな成果があったと言える。
今後同じ巨大アメンボが出現しても、確実に無力化して退治できると分かったのはかなり重要な事だ。
しかしそのツカサの言葉に、すっかり疲れた様子で地面に腰を落としていたサユキが、弾かれたように顔を上げて悲鳴を上げる。
「え、それってまた今のをやるんですか?」
「うーん、多分そうなるね」
ツカサは綺麗な笑顔でサユキに返す。
サユキはアメンボ対応のために召集されたが、そのアメンボが人間の手により異界から呼び出されたと言ってもいい状況にあったことは聞かされていない。
だからなぜツカサがもう一度今のような事をする可能性があると言っているのかはわからない。
だ自分たちの会社の社長が、絶対にこんなことで適当な嘘を吐く人間では無いと分かっているので、サユキとしては覚悟を決めるしかなかった。
異能というか、冷気の魔法の仕様で極限近くまで疲れ切っていたサユキだったが、目の前の巨大生物がもし市街地へと進行していたらと考えると、とてもではないが二度とやりたくないとは言えない。
むしろ今度はもっと早く、周囲を騒然とさせないほどに素早く対応しなくてはと決意する。
「……修行します」
まるで死地に向かうような真剣なサユキの様子に、ツカサは綺麗な笑顔から泣きそうな笑みに変えて労う。
「ありがとうサユキさん。君には助けてもらってばかりだ……でも、君の力は本当に大事な物だから、無理はしない程度に頑張ってね。ユカリに言って異能手当申請してくれたら、ちゃんとお給料に反映するから」
本日の更新もこれだけ。
明日も一回更新です。
ついに.......GWが終わってしまった。
何も、なにもしない連休が.......。
そんなアンニュイなよるのおともの、今後もよしなにお願いいたします。




