308.サトルさんと夜のお仕事
サラダちくわとちくわサラダがあるのです。
下通の幽霊が聖女エーデルだと分かった日の夕方六時。
ミヤコたちは一度クロノス社に帰った後、ルイだけを会社に残し、ミヤコ、シオリ、クロエ、クロノの四人は黒江家に帰り、送って行ったサトルは再びクロノス社へと戻ってきていた。
夕食はクロノス社で買いこんできた弁当を食べる。
これから一仕事あるのでしっかりと食事は摂らなくてはいけない。
「ごめんねサトルちゃん、こんな時間までお仕事で」
場所はいつもの社長室。買い置きしておいたコンビニスイーツを食べながら、ユカリがサトルに謝る。
「ツカサもユカリも同じだろ」
弁当のヒライのちくわサラダを齧りながらサトルは答える。
ちなみに食べ比べが出来るように、別の店のサラダちくわも買ってある。
安く大量に買い込めて、なおかつ味を楽しむのが黒江家の食事では重要視される。
これはマチナカからクロノス社へと帰る前にサトルがツカサに頼まれ買ってきた物だった。
しかしその買い物を頼んだツカサは今は社長室にはいない。
友人であり上司であるツカサがこの時間までどころか、この後も仕事だと分かっているので、サトルは自分が夜まで働くことに否やはない。
「いやあ私たちは食事で睡眠の代替が出来るけど、サトルちゃんはできないからさ」
自分たちよりも脆弱なサトルにきつい仕事を押し付けているのが忍びないとユカリは言う。
言われるだけの自分の弱さを理解しているので、サトルは侮るようにも聞こえるその言葉をそのまま受け止めまあどうにかなるさと肩をすくめる。
異能持ちの大半が持つヨモツヘグイと呼ばれる性質。これは何も異能を使うためのエネルギーだけを補填してくれるものではなかった。
すべての異能持ちではないが、異能持ちの多くの人間がこのヨモツヘグイの効果で、睡眠不足やケガや病気の治癒を無意識に行っていた。
ミヤコに付いては長年の虐待であまり自覚は無かっただろうが、本来だったら病気になり儚くなってもおかしくない状況。
しかしそこで成長不順以外の大きな病気をしていなかったことから、ヨモツヘグイのこの効果を引き出せていた可能性があった。
ただミヤコ本人はそのことに気が付いていないのではないか、そうサトルは考えユカリに問う。
「まあ……そう言えば、ミヤコには教えてるのか?」
「うん? 異能持ちだと食事で身体の機能の維持を賄えるってやつ? 教えてないよ。教えて無茶されちゃったら嫌だし。シオリさんも教えたくないって言ってた。あと弟達にも言わないよう言ってるし、何より三人ともミヤコ君が無茶しようとしたらすごく泣いて怒りそうな感じ? ツカサちゃんの二の舞は嫌なんだろうね」
ミヤコは家族の中で自分一人が生き延びてしまったことや、親類に化け物としてコミュニティーから排除するような扱いを受けていたため、自分が他人にとって排除されるべき存在であることを恐れている。
その為保護されて衣食住が整い、自分の生活に余裕が生まれると、他人のために役立つことに固執する傾向を見せ始めていた。
傍から見ても分かるほどに、今のミヤコはサトルやツカサのように「他人のために無茶をして命を散らしかねない」と思われる要素を見せている。
まだそれがミヤコ自身の確定した性質となっていないのは、周囲の人間が、特に黒江家の三兄弟とシオリが、ミヤコを危ない場所に出したくないと必至に押し留めているからだ。
ただ、シオリはミヤコが自分自身を肯定できる程度の役目は与えてもいいと思っているふしがあるので、この辺りの調整は難しいなとユカリは考えていた。
「……まあ、専門校行くならそれからでもいいのか」
ユカリの話を聞き、これから先に学ぶ機会があるのだったら、その時に知るのでも構わないかと納得するサトル。
サトルが納得したところで、ユカリは買ってきていた総菜の酢豚をサトルに勧める。
「たんぱく質多い方が治療する時楽だから、もうちょっとお肉とか食べとかない?」
サトルは総菜を見るとちょっと嫌そうに眉間に皺を寄せる。
酢豚を受け取る代わりに鶏レバーを手に取る。
「胃が疲れるからなあ……ああ、レバーは食べとく」
「から揚げは?」
レバーだけでは足りないと言う様に、今度はから揚げを勧めるユカリ。
サトルはそれにも首を横に振る。
「から揚げ食うくらいならサラダチキン食べる」
「うーん、だったら冷凍のブロッコリーも食べとこうか。ちょっとレンジで温めてくる」
もっとたんぱく質を。できれば他の栄養素も。と、次から次に勧めるユカリに、サトルは小さいため息を吐くとソファから腰を上げた。
「それならレトルトのミネストローネスープに入れる方が食べやすい」
そのままキッチンへ向かうサトル。
ユカリはそれを止めることはしない。
「そう? じゃあサトルちゃん自分でやる?」
「ああそうする。ついでにブロッコリーのチーズ焼きも作る」
「あ、チーズ焼きなら好きかもー」
「ん、チーズはツカサも好きだし大きい皿で作るわ」
「わーい、ありがとー」
二十分ほどして、サラダチキンとブロッコリーを入れたミネストローネと、適当に卵とチーズを落として作ったブロッコリーのチーズ焼きを持ったサトルがキッチンから出てくると、ちょうどタイミングよくツカサも社長室に帰って来たところだった。
本日の更新もこれだけ。
明日も一回更新です。
ユカリとサトルはお友だち以上家族未満です。
サトルから見ればほぼ妹で、ユカリからみたらほぼママです。
ママみEX。




