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305.落とし穴と兎

 エーデルのジェスチャーゲームにじれて来たのか、クロノがイライラした様子でがりがりとクロエの腕を掘る。

 腕を掘りながら愚痴を垂れるクロノ。

 クロエは腕を掘るクロノの顔面をおさえ動きを止めようとするが、小さな手では溢れんばかりのモフモフを押さえきることは出来ない。


「それにしてもエーデルは何でこっちに落ちて来たかね? こいつこっちが向こうとは違う世界だって理解してるか? まあさすがに景色違いすぎるし分かるのか」


『エーデル様、差し支えなければどうして貴方様がこの世界にいらっしゃるのかを聞かせてください。貴方様の御生まれになった世界とは別の世界にいると理解していらっしゃるでしょうか?』


 ルイの質問にエーデルは大きく頷き、かがんで腕を伸ばすと地面に円を描くようにその場で回って見せる。


「えっと、何か地面に向けて大きく輪を描くような動きしてます」


「穴?」


 まるで自分の周りに穴を掘っているようだとミナミが端的に口にした呟きを、ルイは拾って質問として伝える。


『その動きは、穴を表しているのでしょうか?』


 エーデルが頷く。


「頷いてます」


「穴に落ちた?」


 続いてイクミも問えばやはりルイが通訳し質問にしてくれる。


『その穴に、貴方様は落ちたのでしょうか?』


 もう一度頷くエーデル。


「また頷いてます」


「やっぱり落とし穴?」


 ミナミの言葉を通訳するルイ。


『落とし穴名に落ちたという事でしょうか?』


 首を横に振るエーデル。


 ジェスチャーだけではなかなかに通じる様子が無い事に、ミヤコたちはそれぞれ唸り首を傾げる。


「違うんだ」


「落とし穴ではないけど、穴ではあるんだよね? つまり人工物的な穴ではないって事?」


 シオリの言葉にクロノの耳がぴょこんと横に広がる様に立った。


「あああああああ、そうかそうか、うん、そうだよな、そういう事か」


 それまで焦れてクロエの腕を掘っていたクロノだったが、何かに気が付いたのか大きな声を上げてクロエの上での中から乗りだし前脚をエーデルへと付きつけた。

 ビクリ肩を跳ね上げ、クロエはクロノを地面に落とした。

 クロノはモサッと見た目よりは軽く地面に降りると、不機嫌そうに後ろ脚を踏み鳴らす。


「何すんだよいきなり落とすな」


「いや今のは君が悪い。いきなり大きな声を上げるから」


 だからもう抱き上げてあげないとふんと鼻を鳴らしてそっぽを向くクロエ。

 クロノはもう一度後ろ足をダンと踏み鳴らす。

 仕方がないのでサトルが代わりにクロノを抱き上げる。

 それが気に食わなかったのか、シロノがサトルの頭をがりがりと掘ろうとする。


「やめろ、それは止めろ、髪は駄目だ、髪は」


 どうやらサトルは自分の髪の状態がシビアな物であると感じているらしい。

 慌てて右手にクロノ、左手にシロノを抱えて、何とか二羽を宥めようとする。

 しかしそれぞれに気に食わないことがあるからか、二羽の兎はサトルのシャツやジャケットをホリホリカミカミと容赦がない。


「何かこうしてみると意外と兎ね……精霊様が良ければ私が抱き上げましょうか?」


 不機嫌にふるまう兎にシオリが手を伸ばす。

 クロノはぶうぶうと鼻を鳴らしながら、シオリへと身を乗り出す。

 どうやら抱き上げるのはシオリでもいいらしい。

 というか、真夏の地面はあまり居心地がよくないらしい。


「ありがとうシオリさん助かった」


 本気でほっとしたように礼を言うサトル。

 兎って案外大変なんだなあと、ミヤコは二羽の兎に翻弄されるサトルを見て思った。

兎の面倒な可愛さを書きたかっただけのシーン。

森野のお腹には兎の噛み跡があるのです。


本日の更新もこれだけ。

明日も一回更新です。

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