303.セルフブラック聖女
幽霊と明確な意思疎通が出来ている。
そんな光景を見て、思わずミヤコが呟く。
「向こうの世界でも否定って首を横に振る事なんだ」
見えないシオリが驚く。
「そうなの?」
サトルもそう言われてみれば確かにそうだと、エーデルを観察しながら子供らミヤコたちに答える。
「否定で首を振るのは動けるようになった赤子にも見られる行動だし、異文化でも通じるのかもしれないが……聖女はこちらの世界からの転生者だとクロエは言っているから、もしかしたら普通にこちらの世界の常識に則っての行動なのか?」
サトルの疑問にミヤコは違うのではないかと反論する。
「でも日本語通じていませんよ」
そんな背後の声に、クロノが不機嫌そうな声で注意する。
「うるさいぞー、お前ら静かにしろよ。言葉なんて使わないと忘れるもんだ。向こうの生が長くなりゃ何処の聖女も言葉なんて自国の言葉か周辺国くらいしか使えなくなってたぞ」
クロノに注意され、その説明にそういう物かと納得したミヤコたちは話を聖女エーデルへと戻す。
サトルがルイへと通訳を頼む。
「すまない。ルイちゃん、もう一度こちらに体はあるか聞いてくれるか?」
『エーデル様はこちらの世界に体があるのですか?』
サトルに従ってルイが問いかければ、幽霊は首を縦に振る。
その言葉にサトルは少し考えこむように口元に手を当てる。
眉間に皺が寄っているので、ミヤコは何かあまりよくない可能性に行き当たったのかもしれないと思った。
「あるのか……ならば、まだ生きているのかどうかを聞いてくれないか?」
サトルの次の問いにミヤコは驚く。
「え? でも幽霊」
ミヤコは初めて見た瞬間から、見ためや恰好から「すでに死んでいるはずの存在」だと思っていた。
しかしサトルは幽霊、聖女エーデルはまだ生存しているのではないかと考えたようだ。
「生霊ってものが存在するだろ? ほら、源氏物語の六条の御息所女みたいな。魔法まだあった時代の物語には、当時の文化風物が描かれてる。なら魔法がある世界にも同じような生き霊のような存在がいるかもしれないと思ったんだ」
古典長編小説の傑作源氏物語を引き合いに、生きながらにして魂だけで離れた場所へと飛び、人に危害をも加えた女性の話を例として挙げる。
物語にされるほどに、生きた人間の幽霊というのはあり得たことなのだという。
「それに彼女がもし魂だけの存在だったら、こちらの物かあちらの物か、俺が気が付けるか分からなかったんだ……少なくとも、クロエのような存在はこちらの物だと感じているが、聖女はこちらの世界の魂があちらに流入して生を受けて生まれているんだろう? だと言うのに、なぜ俺は彼女を異界の存在だと思うんだろうかと思ってね」
続けて言うサトルに、クロノが大きくうなずく。
「エーデルならそうか」
クロノとクロエは思いあたることがあったらしく、サトルの言葉を肯定する。
ミヤコには幽霊がこちらの世界か、向こうの世界か、どちらに属いているのかわからない。しかしサトルは明確に幽霊を向こうの、異界からの転生を経たクロエはこちらの存在だと言う。
ならば、どこかにその存在を異界の物であると固定する要素があると考えた。
「そういやエーデルも薄っすらではあるが、こちらの世界の記憶があったはずだよな……となると、魂はこちらの物とも向こうの物とも言えないのかな?」
ルイはすぐに幽霊、エーデルに問う。
『エーデル様は、まだ生きておられますか?』
大きく頷き、表情を明るくするエーデル。
それまでの何処か狂人めいていた暗い表情から、希望を見つけた迷子のそれのように、今にも泣きそうな笑顔で何度も何度も頷く。
エーデルが生きている、そう確信するや、クロノは大きく身を乗り出しサトルへと命令をするような強い口調で訴える。
「こいつまだ生きてる。どっかにエーデルの身体があるんだ! 探してくれサトル! エーデルなら即戦力になる!」
クロノの要請自体は理解のできる物だったが、即戦力になるという売り込みのような言葉の理由は何だろうか。
「助けるのはもちろんだが、即戦力ってどういうことだ?」
問えばクロノは前脚でびしりとサトルを指して答える。
「エーデルの体を見つけてくれたら、きっとこっちでも働いてくれるから。こいつ向こうの世界のお前らみたいな奴なんだよ。ほら、さっきも自分がこんなんなのに、蜂からミナミを守ったろ? そういうの」
ミヤコはサトルとエーデルを見比べる。
自分が幽霊になっても他人を守るために働いていたエーデル。
死にたがりだと言われるほどに自分を追い詰めるように仕事をするサトルやツカサ達。
「あー……サトルさんたちみたいな、ね」
ふっと鼻で笑う様にシオリが呟く。
サトルは頭痛でも堪えるように額を抑え、よく分かったと頷いた。
今日の更新は無いと書いたな、あれは嘘だ。
頑張ったらなんとかなりましたので更新一回。
明日も一回更新です。




