299.サトルさんと引率
ルイが保護された翌日の事。
魂の頑健さ、それが本当に世界を渡る条件になるのなら、幽霊を見つけることのできるアプリの改良で、もしかしたら異界からの流入した生物を見つけることができるかもしれない。
ユカリがルイと二人きりでいた間に、ツカサ達が行っていた考察の内容を聞き、ユカリは自分にできることがあるかもしれないと、聞いた話を簡単にまとめて、それを持ってクロスノックス社に突撃していった。
クロノス社だけでやるよりも、規模も資本も大きい会社を巻き込む方が確実。何より身内経営なので社長に直談判すればほぼ確実に許可も予算も降りるので、コネをフルに使ったゴリ押しをする気満々だった。
そこに悪意はなく、義務感で動いているのは分かるが、会社という組織の下で働く人間への配慮など、まるで見受けられない。
そんな暴走するユカリを、頭を抱えて見送るサトル。
「昨日の説教だけじゃ足りなかったか?」
と、静かに怒るのだった。
ちなみに今日のルイの姿はシオリにそっくりで、髪型だけがショートカットという違い。
服装も普段のシオリが好む大人しいシャツとシオリはあまり好まないパンツに日除けの長袖ジャケット、に帽子まで完備と、まるでシオリを少年にしたような姿。
何故と問えば、にこりと笑って答えてくれる。
「仕事として、シオリの身代わり役を引き受けたの」
だから完全にシオリと同じ姿にはせずとも、シオリの姿に寄せているのだという。
「まあそういうわけでえ、しばらく聖女を殺す蜂の捜索は続けるけど、別アプローチからも捜索することになったので、今日はちょっと見える人と異界の記憶のある君達に、件の幽霊を確認してきてほしいんだよね。ごめんね、こんな無理やり手伝わせちゃって。運転手兼助手としてサトルを連れて行ってください」
そう言ってツカサは、ミヤコ、シオリ、クロエ、クロノ、シロノ、そしてルイををクロノス社から送り出す。
子供を使う事をためらう様子はもうすでにない。
現状異界人の手も借りたいと言う程人手不足なのだ。
「異能って意外と地味な能力が発現する人少ないんだよね。というか、発現するに至っても、それが異能なのか、ちょっと身体能力が凄い程度なのか分からないと、異能として気にしないままってのが多いのかな?」
とは以前ユカリが話していた事。
ミヤコのような感覚の異能で劇的なまでに強い異能と言うのはとても珍しいのだと言う。
ミヤコはツカサとユカリが自分の祖父母を熱心に勧誘していた理由の一端を感じた。
マチナカへとミヤコたちを連れて行くのはサトル。その護衛役として今日はハルと、ミヤコのはじめましての女性が一人。
女性にしては高い身長、凛々しい顔立ちと少年のような可愛らしい笑顔が人目を惹く、そんな女性だ。
「男だけで子供を引率していると、どうしても、な」
サトルの言葉にさもありなんと頷くシオリとルイ。
しかもそんなサトルの頭上には、ずっとシロノがライドオンしているので不審者感が増している。
昨日一日サトルから引き離されていたので、どうしても今日は離れたくないとの事。
しかしサトルは両手がふさがるのは勘弁願いたいとのことで、この形に落ち着いているらしい。
普段は八キロを超えるくらいの重さらしいのだが、頭上にいる間は十グラム程度に調整し、帽子をかぶるよりも軽くしてあるので、羞恥さえ克服できれば問題無いと、真顔で言うサトルの耳は、かなり赤くなっていた。
「それで、僕たちが今日やることは、件の幽霊を確認するだけ、でいいのかな?」
いつもの如くクロノを抱えたクロエがサトルに問う。
場所は花畑公園とは名ばかりの、あまり花も無いマチナカの公園。
真横には花畑広場と呼ばれるイベント広場。バスターミナルと商業ビルが合わさった施設が、プロムナードを挟んでその広場を望むように建っている。
今日は夏休みの中頃の日曜日と言う事も有り、人が多く酷く混雑していた。
特にプロムナードを通って熊本城に行く人が多いようだ。
「……僕も熊本城行きたい」
クロエがサトルを見上げてぽつりと言う。
サトルが額を抑えて呻く。
期待の籠った視線を受けて、サトルは絞り出すような声で言う。
「一応今日は仕事の手伝いとして来てもらってるんだ……目的の場所から離れるし、今日行くってわけには」
クロエの瞳が涙で潤む。
クロエは前世の記憶がある。それが故に大人びた振る舞いをしているが、だからと言って子供らしい感情が無いわけではないのだ。
普段は田舎の隠れ里で静かに暮らしているが、だからと言って賑やかな場所が嫌いなわけではない。
むしろ人が好きなクロエは人の多い賑やかな雰囲気をただ眺めているのが好きだ。
「そう……そうだね、やるべきことをやらなきゃ、我儘は駄目だよね」
しょんぼりという効果音が聞こえそうなほどあからさまに肩を落とすクロエ。
腕の中のクロノは、心配でもしているのか鼻先をクロエへの顔へと向けている。
ぐぬぬぬと呻くサトル。
しばらくの葛藤の末に、サトルは折れた。
「早めに……終われたら少し行ってみるか? 何があってるか分からないけど、日曜日だし、きっとにぎやかだ。それに、ツカサが城彩苑のソフトクリーム勧めていたんだ……をおごるよ」
サトルの言葉にクロエは顔を上げ、こぼれんばかりの笑みを浮かべる。
「うん! ありがとう!」
ツカサそっくりな幼い少女のおねだりに、サトルが抗えるはずがなかった。
輝く笑顔に、サトルは苦笑で応えた。
その後サトルに見えない場所で、勝利の笑みを浮かべていたように見えのは、きっとミヤコの気のせいだろう。
本日の更新もこれだけ。
明日は更新できるか分かりません。
ちとばかし、体調が優れなさすぎて。




