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297.頑健なる魂とおかん

「ユカリさんって、ルイちゃんの事、いたいけな子供じゃなくって、なんか有能そうな異世界人くらいに思ってるってことですね」


 サトルの言いたいことはこれだろうとズバリとシオリが言えば、サトルはそういう事だと頷く。

 それに対して、シロノのはしみじみと頷く。


「あー、まあだろうなあ。あれは本来生物じゃない。でも今のルイはなんつうか生物っぽいと言うか……。いやまあ異界の流入に巻き込まれて生命が保持された状態でいられる時点で、肉体と魂の頑健さが保証されているんだよな。それらが頑健であれば、それらによって保持される精神が安定しているのも自明だろ。だから有能ってのは間違いないな」


 その話は初耳だとツカサとサトルが身を乗り出す。


「へえ、それってこっちからあっちに渡った人も?」


 クロノはツカサに対し、自分を抱えるクロノを指して当然だと答える。


「当たり前だ。見ろよこいつ。この世界で一番魂の頑健さに定評あるぞ。千年生まれ変わり続けて記憶保持するとかバケモンだろ」


 言ってクロエの腕を前脚で叩くクロノ。


 ミヤコとシオリはぎょっと目を剥く。

 ミヤコはシオリにどういうことかと視線で問うが、流石にそれは知らないとシオリは首を振る。


 千年も生まれ変わり続けるなんて、どこの百万回死んだ猫だろうか。


「なるほど、逆説的に頑健な存在であれば異世界に渡れると言う事なんだな」


 クロノの答えにサトルが何かを思いついたのか、スマホを取り出し操作する。

 そのスマホの画面を覗き込み、ツカサはなるほどそう言う事もあるのかと頷いているが、ミヤコはもちろん、シオリにもまるで意味の分からない事だった。


 ただクロエは、サトルやツカサの反応は特に気にせず、自分化け物呼ばわりするクロノに対して抗議をする。


「失礼な毛玉だな。流石に思い出せるのは二つ前くらいまでだよ。それ以前になると記録程度の参照しかできないから。けっこう普通によくある話だからね、これくらい」


「よくあるんだ……」


 ミヤコは茫然と呟く。


 わざとらしく眉を吊り上げて見せるクロエに、ミヤコは確かにこれはただの子供ではないなと感心する。

 千年もの記憶は保持していないと言うが、少なくとも幼子の精神性では無さそうだ。

 あの薄原の里に隠れるように住んでいた理由も分かるようだ……いや、小学校に入っているっポイが。


 ツカサはそんなわざとらしいクロエには目を向けず、何かに気が付いたように口元に拳を当て考え込む様子。


「そう……肉体と魂の頑健さ」


 何か気になることがあるらしく、しばらく黙り込んだと思ったら、不意に顔を上げてクロノに問う。


「虫の場合は、魂の頑健さとは関係ないのかな?」


「いや、あれは全にして個、個にして全。群れが一つの命って換算だろうよ。少なくともドッペルゲンガーと同じならそうだ」


 虫が全にして個、というのはミヤコにも覚えのある感覚だった。

一つの群れの虫は、それぞれわずかずつ、羽音や動きに差異があった。

 虫の個性は一つの群れが共有してた。


「うん……もしかして聖女って、別にこの世界で魔法の素養があるかどうかじゃなくて、あの聖女を殺す蜂ですら取り殺せないような頑健な存在が、聖女の資質ありってことなのかな?」


 一つの解を見たと言わんばかりのツカサの言葉に、なるほどと頷くクロエとクロノ。

 何か思い当たることがあるのだろう。


 そうしてしばらくの間ユカリとルイを待っていると、二人は何事も無かったように帰って来た。

 帰ってきたルイは、ユカリの言っていた通り十八歳ほどの女性の姿に変わっており、それはシオリをグンと大人びた姿にしたような姿だった。

 体形が変わったので、しっかりと服装も変わっている。

 気のせいでなければ、妙にもじもじと敷いているように見える。


「あはははははははー失敗失敗。ルイちゃん大人にしたら下着なかったからさあ、急遽さらしを巻いて対応しちゃった」


 首を傾げたミヤコに、ユカリは笑って爆弾を投下した。

 失敗しちゃった、ごめんねと口だけで謝るが、ユカリに悪びれた様子はない。

 目を見開き固まるミヤコ。


 サトルが無言で立ち上がると、もじもじするルイの肩に自分の来ていたジャケットをかけ、そっと社長室のドアの前へと連れて行く。


「元の大きさに戻って着替えてくるんだ。ユカリのことは気にしなくていい、しっかり叱っておくから」


 ルイを廊下に送り出し、ゆっくりと振り返ってユカリを見やるサトルの目は、静かに怒りの灯がともっていた。


「ユカリ、暴走するなとあれほど言ったよな? 暴走して他人に迷惑かけるなって、やるなら一人の時にしろって、俺は何度君に伝えたか覚えてるか? 君が自分が前線に立てないで悔やんでいることは知っているし、それを挽回するべく人員を集めたり、道具開発に力を入れることも知っている。賛同もしている。だが、それとこれとは別だ。他人の尊厳に対して雑に扱う事は良い事ではない、それくらい君も分かってるなユカリ? たとえ異世界人であっても、その存在の在り方がこの世界の人間とは違っても、触れて見て言葉を交わせた時点で、少なからず知的な生命体であり、相互に理解し合える可能性のある存在だ。それを君はどうした? どのように扱った? 社会に触れて学ぶ周知の心を、記憶の読み込みと言う形で得ている彼女に対して、君は何をした? ユカリ? 自分が下とを口に出してみろ」


「えっと……あの、ごめんなさい」


 息継ぎがどこかも分からないサトルの長い説教に、ユカリは目を泳がせて謝罪する。

 ツカサはそれを困った妹だねとやさしく見つめている。

 クロエはクロノを見下ろしながら、初めて見たねと言い合い、シオリもまたこんなに怒ることあるんだと小さく呟く。


「ごめんなさいじゃない。君が自分がしたことを正しく理解しているのかと問うているんだ。君はルイに対して何をした? 彼女の尊厳を傷つけるようなことをしたんじゃないのか? 下着が無かったにせよ、さらしを使ったにせよ、別に俺たちに報告する必要はなかっただろう。それにだ、彼女は俺が元の姿に戻って来てくれと言ったらすぐに了承した。それ位姿を変えると言う事は労力のいらない事なのだから、大人姿のルイのお披露目は下着を含めた着替えをそろえた後日で良かったはずだろう」


「はい」


 素直にうなずき、もう一度ごめんなさいをと頭を下げるユカリ。

 それはさながら母親に叱られてしおれる子供のような姿だった。


「俺に謝ってどうするんだ。謝るべきはルイだ。辱めを受けたのは彼女なのだから」


 平坦な口調で淡々と怒るサトルに、ミヤコはサトルをおかんと評した黒江家の兄弟の発想はあながち間違っていなかったなとか、そのサトルのおかんっぷりを知っているという事は、きっとこんな感じで怒られたことがあるんだろうなあと思った。

本日の更新もこれだけ。

明日も一回更新です。


雪降りましたね。

南国熊本に雪が降りました、ひゃっほい。

家の前に十五センチくらいの泥だらけの雪だるまが置いてあり、すごく可愛かった。

きっと喜んだ子供が作ったにでしょう。

寒さの中に暖かさを感じました。

まあ作中はまだ夏なんですが

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