296.ドッペルゲンガーとホムンクルス
シュークリームを食べ終わってもユカリたちは戻ってこない。
「シオリさんの時より時間かかってる」
「そうなの? 何か支障があったのかな?」
心配するミヤコ。
釣られてツカサもやや心配をし始める。
ミヤコは先ほどユカリの事を止めず、心配するミヤコを制したツカサに、その行動の真意を問う。
「カサさんはそんなにルイさんに働いてほしいんですか?」
その声には若干の非難が含まれていることに気が付き、ツカサは作り笑いで答える
「まあね。異界から流入する人間は、人材として有能ってのは分かってるからね」
「有能だったら雇うんですか?」
確かに自分も異能が必要だからと、現場に連れ出されたことが何度かあったなとミヤコは思い出す。
そういう時もツカサはこうした作り笑いをしていた。
「ルイちゃん……子供なのに」
自分ですらここまで強引に働けとは言われなかったのにとミヤコが言えば、サトルがため息を吐きつつそうだなと頷く。
「だがルイちゃんは……どうなんだろうな? ユカリがどうしてもルイちゃんを働かせたい理由は、よく分からないな。いや、働かせたいと言うのは分かるんだルイちゃんは確かに有能そうなんだよ。ただ年齢の幼い子供だという認識を、ユカリはしていないような」
それに付いては自分が分かるとシオリが手を上げて答える。
「体の作りが、模倣された人間の体だから、ユカリさんには人間に見えてないのかもしれませんね。私が治癒の力を使った時の感じだと、あれは……精霊様に似ていましたよ。すごく微妙な触り心地でした。形は確かにその生物の物だと言うのに、何故だか感じる体温や鼓動、匂いなどに違和感を感じるんです。目を閉じて触ったら、一瞬人間であるのかすらわからなくなるような……だから治癒の異能を持ってる人間からすれば、外面は人だけど中身は違うって感じると思いますよ」
言って指を指すのはクロノ。
外見通りの年齢でないのなら、働かせる子に罪悪感はない。そうシオリが説明すれば、サトルが眉間に皺を寄せ、クロノがなるほどなあと納得を示す。
「シオリさん、違和感の多かった五感は何処が一番だったか分かるか?」
サトルの問いにシオリはすぐに首を横に振る。
「いえ、手触りの違和感が強かったとしか……見た目で判断すると、完全に人だと認識してるんですけど」
「ミヤコ君は何か気になる事は?」
ならばとサトルが今度はミヤコに問う。
五感が一般的な人間よりも優れているミヤコからすると、ルイは人間らしい姿をしていたとしても、異界の気配が濃厚で、あまり人間とは思えていなかったことを正直に話す。
「えっと、ルイちゃんは、最初にあった時から見た目がシオリさんに似てるだけで、匂いとか音とかは全部違うかなってのは。バニラとバニラ風の香料くらいの違いです」
ミヤコの言葉にサトルが納得したように頷く。
「ホムンクルスって知っているかな?」
そう言うとサトルはユカリがその場に置きっぱなしにしていた、いつものタブレットを掴み上げる。
少し操作して画面をそれぞれに見えるように掲げるサトル。
「わあ、なんか不気味」
ツカサの端的な感想の通り、そこに移されていたのは、まるでホラーゲームの登場キャラクターのような見た目の、歪な人間の人形。
がりがりの木の枝のような体、大きすぎる両手、強調するように付きでた顎と口、肥大化した耳と鼻、そしてそれらの強調された部位に比べて小さく見えてしまう目。
「これがホムンクルス。所謂人間の五感が脳のどれくらいの領域を使っているかというのを可視化したものだ。ほら、触覚が手、味覚が口、聴覚の耳に嗅覚の鼻、そして視覚の目」
その異様な風体は、人間の手の触覚がどれほど繊細で、人間がいかに「物を使う」ことに力を注いで生き継いできたのかの証左。
「ドッペルゲンガーの変身能力ってのは、人が思うほど完璧な物ではないのかもしれない。少なくとも、五感が鋭敏な人間にはバレバレだったりするのかもな」
だからユカリはルイを子ども扱いせずに、容赦なく仕事をさせたがっているんだろう。lと言うサトルに、ミヤコたちはただなるほどと頷き、ユカリに目をつけられた不幸に「頑張って」と黙祷した。
本日の更新もこれだけ。
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