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第7話 久しぶりの感触

「痛い?」


「いや……なんだ? 中から、何かが……伸びてくる……! 熱いっ……! 熱い!」


 瞬時に骨が形成される。


 大腿骨、膝関節、脛骨《けいこつ》、腓骨《ひこつ》。


 それを包むように筋肉が伸び、血管が走り、神経が細い光の糸みたいに繋がっていく。


 適当に肉を生やして終わりじゃだめだ。


 膝が伸びすぎないよう靱帯《じんたい》の長さを合わせ、足首は歩行時に必要な角度まで動くようにする。


 足底には、地面の硬さを感じ取れるだけの感覚受容まで繋げる。


「くっ……あ、ぁ……!」


 デナがシーツを強く握った。


 額に汗が浮かぶ。


「あと少しだ。呼吸止めるな。ゆっくり吸って、吐け」


「こんな時まで……妙に慣れているな……!」


「前世で患者に何百回も言ったからな」


「前世……?」


「うん。忘れて」


 危ない。


 今それを説明してる場合じゃない。


 最後に左右差を確認して、足の指まで一本ずつ形成する。


 魔力が収まった。


 そこには、昨日まで存在しなかった二本の脚があった。


 白い肌。膝。細い脛。足首。十本の足指。


 デナは何も言わなかった。


 ただ、呆然と自分の脚を見つめている。


「指、動かしてみて」


「……え?」


「足の指。少しずつでいい」


 デナは恐る恐る力を込めた。


 右足の親指が、ぴくりと動く。


「……動いた」


「次」


 続いて指を開いて。曲げてみて。左も。


 全部、動いた。


「……動く」


 声が震えた。


「私の……脚が……」


 デナの手が、自分の膝へ触れる。


 撫でる。


 何度も確かめるように、太腿から足首まで両手で触っていく。


「熱い……ちゃんと、温かい……」


「ちゃんと血が通ってるようだな」


「触った感覚も……分かる」


「よしよし。神経もしっかり繋がっているみたいだな」


 次の瞬間、ぽた、と彼女の膝へ水滴が落ちた。


 デナ自身が驚いた顔で頬に触れる。


 涙だった。


「……なんで」


「泣くくらい嬉しいなら、別に止めなくていいだろ」


「違う……私は、もう……二度と……」


 そこで言葉が続かなくなった。


 昨日までどれだけ強がっていた女が、子供みたいに両脚を抱えて泣いている。


 俺には、その時間を邪魔する気にはなれなかった。


 しばらくして、デナが顔を上げる。


 涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、俺を見た。


「……私は……、立てるのか?」


「まだ立つなよ」


「でも、脚がある!」


「あるからこそ大切にしてくれ。今まで脚なしで生活してた身体が、急に昔と同じように動くと思うな。足底感覚も荷重も、身体が思い出すまで調整がいる」


「それでも……私はまたいずれ、立てるようになるのか?」


 俺は何をそんな当たり前のことを聞くんだ、と思った。


「きっと、なるよ」


「……本当に?」


「当たり前だろ。お前の脚だ」


 デナの顔が、また歪んだ。


 そして今度は、自分の脚ではなく俺の服を掴んだ。


「……ありがとう」


 かすれた、小さな声だった。


 でも、昨日までの強がりとはまるで違った。


 たぶんこれが、彼女が俺に向けた初めての本音だった。


 俺はその手を振りほどかず、ただ一つだけ念を押す。


「だから今日は立つなよ。絶対にだぞ」


「分かった」


「絶対だぞ?」


「分かったと言っている!」


 その返事を信じて、俺は治療用の器具を片づけ始めた。


 この時の俺は知らなかった。


 元聖騎士という生き物が、自分の脚を取り戻して十数分も大人しく寝ていられるほど素直ではないということを。

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