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第6話 悪の大魔導師、元聖騎士の両脚を再生する

 デナが目を覚ましたのは、昼を少し過ぎた頃だった。


 十数時間も眠ったせいか、昨日まで青白かった顔には少し血色が戻っている。


 ベッドの上で身体を起こした彼女は、俺が部屋へ入るなり警戒するように背筋を伸ばした。


「……来たか」


「まるで処刑人を待ってたみたいな言い方だな」


「似たようなものだろう。昨日からずっと、治すだの戻すだのと言っているが、私には何をするつもりなのか分からない」


「俺も実際にやるのは初めてだから、そこは同じだ」


「私を実験体にするのか……?」


 もっともだ。そう捉えられても仕方がない。


 ただ、エルブルス・バティーノの身体を持つ俺の頭の中に、昨日からずっと【再構築】という魔法の使い方が浮かんでいた。


 触れた対象の肉体構造を魔力で読み取り、骨や筋肉、神経、血管の形そのものを書き換える魔法。


 原作のエルブルスが何に使っていたのかは考えたくもないが、人体を壊せるほど精密に弄れるなら、逆に正しい形へ戻すことだってできるはずだ。


「まず昨日よりもう一回、身体を診る。今日は魔法を使うから、かなり近くまで触るぞ」


「……好きにしろ」


「そういう投げやりな言い方するな。痛かったら止めるし、嫌なら先に言え」


「奴隷にそんな確認をするなど聞いたことがない」


「俺も奴隷を買ったの昨日が初めてだから知らん」


 デナが呆れたように俺を見る。


 その反応が昨日よりずっと人間らしくて、少し安心した。


 上着をまくってもらい、ベッドの端へ座らせる。


 細い腰。


 肋骨《ろっこつ》がうっすら浮く腹部。


 金髪を肩から払うと、白い首筋から背中へかけて古い傷がいくつも走っている。


 俺はそこに手を添えた。


「ひゃっ……!」


「冷たかった?」


「ち、違う! いきなり素手で触るな!」


「魔力を通すには直接触れた方が分かりやすいんだよ。昨日も触っただろ」


「昨日は覚悟ができていなかった!」


「今日もできてないじゃん」


「うるさい!」


 耳まで真っ赤だ。


 骨盤の傾きと脊柱《せきちゅう》の位置を確認しているだけなんだけどな。


 確かに端から見れば若い女の腰を両手で包み込んでいる状態なので、気まずいのは分からなくもない。


「もう少し上まで触るぞ」


「ま、まだ上に行くのか!?」


「骨盤から脚を作るんだから、腰だけ見て終わるわけないだろ。脊柱と骨盤の位置がずれてたら、左右の脚長まで狂う」


「脚長……?」


「右と左で脚の長さが違ったら真っ直ぐ歩けない。股関節の角度も、筋肉の付着位置も、神経の走り方も全部合わせる必要がある」


 そう説明しながら魔力を流す。


 すると、掌の下にある骨や筋肉の輪郭が、目で見るより鮮明に頭の中へ浮かび上がってきた。


「……すごいな、これ」


「何がだ?」


「いや、すまん。なんでもない」


 まるで3D解剖図を直接見ているみたいだ。


 骨盤から大腿骨が失われた位置、断端で途切れた神経、閉じた血管、その一つ一つが魔力の線として把握できる。


 これならいける。


 前世で何度も見た正常な股関節の動き、歩行時に必要な骨の角度、筋肉の張力、足底へ体重を乗せる時の連動。


 それを思い出しながら、欠けた部分へ魔力を集める。


「デナ」


「何だ」


「たぶん、かなり変な感覚がすると思う。痛かったら遠慮なく叫べ」


「私は聖騎士だ。その程度で――」


「我慢するなって言ってるんだけど? 治療で意地張られるのが一番面倒なんだよ」


「……分かった」


 小さく息を吐いたのを確認してから、【再構築】を発動した。


 黒紫の魔力が俺の手から流れ込み、デナの両脚の断端を包む。


「っ……!?」



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