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第5話 虫を食わせる ※鶏肉です

 煮込んだ野菜の甘み、肉の脂、香草の香りが口いっぱいに広がる。豆はほくほくで、蕪は舌で押すだけで崩れ、魚醤の旨味が全体をまとめている。


 デナはもう一口。


 さらに一口。


 今度は鶏肉を食べた。


「……柔らかい」


「焼きすぎると硬くなるからな。じっくりと弱火で火を通すんだ」


「こんなもの……最後に食べたのは、いつだったか……」


 声が震えていた。


 やがて口元がほんの少し緩み、かすかに笑った。


 俺は何となく【ステータスオープン】を使う。


【栄養状態:改善中】

【精神状態:警戒】

【魔力回復速度:上昇】

【幸福度:微上昇】


(お、本当に上がるんだな回復速度と幸福度)


 俺は自分用とデナ用にティーカップを用意して私室の戸棚にあった紅茶を淹れる。


 茶葉の匂いを一応確認したが、特に変な匂いはしなかった。前世で飲んだセイロンティーにほど近い。


 そして、優雅にすすりながら、ほくそ笑んだ。


「なかなかいい感じだな」


「な、何がだ……?」


 デナは不思議なモノをみるような、警戒するような何とも言えない目つきでこちらを見た。


「いや、こちらの話だ。もっと味を噛み締めて食べろ。もっと笑ってくれ。その方が治りが早い」


「なっ……笑えと言われて、笑えるものか!」


 さっきまで少し笑ってたのに。


 俺が言った瞬間、むすっとした顔に戻った。


 まあいい。怒る元気があるならそれも悪くないだろう。


 *


 食後は身体を洗わせることにした。


 浴室は無駄に豪華で、大理石らしき床に大きな浴槽まである。


 侍女に任せるつもりだったのだが、呼ばれてきたのが腕四本、舌二本の女魔族だった。


 デナが硬直した。


「……俺が外にいるから、一人で洗えるか?」


「まぁ、なんとかな」


「いや。んーー。やっぱ負荷がかかるよな」


 結局、できるだけ普通の人間に近い侍女を探して介助を頼んだ。


 湯に浸かったデナは警戒していたらしいが、温かさに身体がほどけるにつれて肩から力が抜けた。


 戻ってきた彼女は汚れを落とされ、金色の髪もきれいに梳かされていた。


「……何だ」


「いや。お前……やっぱ普通に美人だなと思って」


「っ……!」


 顔が一気に赤くなった。


「なぜそこでそんなことを平然と言えるんだ、貴様は……!」


「え? なになに」


 ただ観測したことを述べただけなのに、よく分からない怒られ方をした。


 天蓋付きの大きなベッドへ身体を下ろした瞬間、デナの顔がまた変わった。


「……柔らかい」


 指先でシーツを撫で、身体を沈める。


 何年もまともな寝具を使っていなかったのだろう。


 ふかふかの羽毛布団を胸元まで掛けてやると、彼女は一瞬だけ目を閉じ、心底気持ちよさそうに息を吐いた。


 その顔にはもう、さっきまでの険しさがほとんどない。


「次は寝ろ」


 そう言うと、デナがぱっと目を開いた。


「……同衾《どうきん》を望むのか?」


「いや俺は別の部屋で寝るけど」


「…………」


「何その顔」


「いや……何でもない」


 俺は枕元へ水差しを置き、立ち上がった。


「いいか。脚を取り戻したいという希望が少しでもあるなら、まず食って寝てくれ。痛みがあるなら我慢するな。身体を治すのはそのあとだ」


「……本当に、私を治すつもりなのか?」


「そのために買ったんだよ」


「私を……壊すためではなく?」


「壊れてるものを買って、さらに壊してどうする。もったいないだろ」


 デナは何も言わなかった。


 ただ、布団を握る指に少しだけ力が入った。


「じゃあ、おやすみ」


 扉を閉める直前、背後から小さな声がした。


「……ありがとう」


 振り返った時には、もうデナは布団へ顔を半分隠していた。


 俺は何も言わず、扉を閉める。


 *


 翌朝。


 いや、正確には翌日の昼近く。


 デナは十数時間、一度も起きずに眠った。


 部屋を覗くと、ふかふかの布団の中で規則正しい寝息を立てている。


 俺はそっと【ステータスオープン】を開いた。


【栄養状態:改善】

【精神状態:安定傾向】

【魔力回復率:+18%】

【身体修復適性:良好】


「よし」


 これなら、いける。


 なんとなく勝手に頭の中に浮かんでくるエルブルスの得意技だったらしい【再構築】の魔法知識と、前世で身につけた人体の知識。


 その二つを組み合わせれば。


 ――両脚を失った聖騎士を、もう一度立たせられるかもしれない。


 俺は眠るデナの脚元を見ながら、次にやることを決めた。


「デナが起きたら、いよいよ脚を治すか」

【あとがき】


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では、引き続き物語をお楽しみください〜!


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