第24話 魔法の鍵で首輪を解除した
「働かせるんだから当然だろ」
デナはしばらく何も言わなかった。
やがて俯いた。
ぽたり、と床へ雫が落ちる。
「え……泣くほど嫌だった?」
「いえ、決して……決してそのようなッ!!!」
顔を上げる。
泣いているのに、ものすごく怒られた。
「嬉しくて……! 嬉しくてっ!」
「あ、そう」
「貴方様に、この人生でお会いできたことが……っ!」
俺としてはごく普通のことだと思うけど、考えてみれば、この世界の奴隷に労働契約という概念があるのかすら怪しいか。
俺は執事から契約解除用の魔法の鍵を受け取った。
「首、少し下げて」
「……はい」
デナが素直に金髪を持ち上げる。
細い首筋が露わになる。
黒い首輪へ鍵を差し込むと、かちりと音がした。
魔力の光が走り、首輪が外れる。
その下にあった薄い魔術刻印も、ゆっくり消えていった。
デナは首元へ手を当てる。
「……ない」
「今日から奴隷じゃない」
その言葉を聞いた途端、また涙が溢れた。
「今度からは、俺の側近兼護衛」
「はい」
「休みも取れ」
「はい」
「ちゃんと飯も食え」
「はい」
「寝ろと言ったら寝ろ」
「はい」
「あと、身体には無理させないでくれよ。前にも言ったけど、痛みを我慢されると負担が偏る。無理した分だけ別の関節まで傷めることになるから」
「……はい」
返事をしながら、とうとうデナが笑った。
泣きながら笑っている。
「なんで泣いてるの」
「だって……私は一度、すべてをなくしたんです」
デナが自分の脚を見る。
「脚も、剣も、地位も、居場所も。最後には人としての価値までないと言われた」
それから俺を見る。
「でもあなたは、全部返してくださった。……それだけじゃない」
胸元へ手を当てる。
「以前より、ずっと大切なものまでくださった」
「……それはちょっと、大げさじゃない?」
「大げさではありません」
即答された。
「このデナ、魔王配下【奈落卿エルブルス様】に一生、お仕えします!」
「いや、一生じゃなくていい」
「……はい?」
「年齢的にきつくなったら辞めてもいいし、やりたいことができたらそっち行っていい。退職金も考えておくしゆくゆくは定年みたいなのも考えた方が――」
「嫌です」
「なんで?」
「一生お仕えします」
「話聞いてた?」
「一生お仕えしますっ!!!」
強い。
デナはもう泣いていなかった。
とても幸せそうに笑っている。
色々大袈裟過ぎると思うけど……。
まあ、本人がそれでいいならいいかと思った。




