第22話 称号と報酬
「奴隷自身に、そこまで自発的な忠誠を抱かせたか」
「……え?」
「鎖で縛るより強い。命令より深い。自ら命を差し出すほど心を作り替えるとは」
また変な方向へ解釈された。
「肉体だけでなく、これからは心まで支配するということか」
「いや、それは――」
「見事だ」
遮られた。
「さすが、我が腹心だ。むしろ以前より、はるかに残酷である」
そして魔王は俺たちを見比べ、さらに機嫌を良くしたようだった。
「決めたぞ、エルブルス」
「何をです?」
「今回の功績に報いる」
魔王が指を鳴らす。
空中へ黒い紋章が浮かび、そのまま俺の胸元へ吸い込まれた。
【称号:奈落卿】
視界に文字が浮かぶ。
「……奈落卿?」
「人間側にもすぐ広まるだろう。魔王軍最悪の大魔導師が、人の心を悪夢のような奈落へ突き落とすとな」
いらない。
そんな評判いらない。
「それと、褒美だ」
「まだあるんですか?」
「我が宝物庫の第三区画を、お前に開放する。好きに持っていけ」
デナと一緒に、後ろに控えていた執事や魔物達が一斉に息を呑む音が聞こえた。
どうやら魔王城内でも人間界でも話題になるほどの、かなり凄い褒美がそこにあるらしい。
しかし、俺にはまだ、よく分からない。
一体何があるんだろう?
「ありがとうございます」
「うむ。これからも励め」
魔王は立ち上がり、俺の肩をぽんと叩いた。
まるで古い友人をからかうみたいな気安さだった。
「お前が最近少し丸くなったと聞いて心配していたが、杞憂だったな」
「……そうですか?」
「ああ。以前より、よほど性質が悪い」
最悪の褒め言葉を残して、魔王は黒い霧となって満足そうに去っていった。
静かになった部屋で、俺は胸元の称号をもう一度見る。
【奈落卿】
その横で、デナが誇らしそうに微笑んでいた。
「おめでとうございます、エルブルス様」
「これ、喜んでいい称号かな?」
「もちろんです。魔王様直々に認められた証ですから」
「そっか……」
まあ、宝物庫まで開けてくれたなら得ではあるか。
*
翌朝。
執事が俺の部屋へ、一枚の書類を持ってきた。
「エルブルス様。デナ様に施した奴隷契約魔術についてですが、そろそろ更新の時期でございます」
「ん?」
紙にはデナの名と、所有者として俺の名が書かれている。
「……これ、更新しないとどうなるの?」
「所有権が失効いたします」
「じゃあ、更新しなくていいや」
隣にいたデナの顔から、一瞬で血の気が引いていった。
【あとがき】
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