第21話 勘違いされて褒められた
と思った直後。
「……く、くく」
魔王が笑い出した。
「ははははは! なるほど! 壊す前に、まず幸福を教えるのか!」
「……はい!」
「地を這っていた者へ脚を返し、温かい寝床を与え、剣を返す。絶望の底にいる者へ幸福を教え、その幸福が失われる恐怖まで植えつける。そして最高の状態まで育てたうえで使い潰す、とな!」
うんうん、いい具合だ。
本当は違う。
だいぶ違う。
でも訂正したら、多分怪しまれて俺の首が物理的に飛ぶ。
だからこそ、これでいいんだ。
「そしてお前の言うとおり昨日は、かつてその女を捨てた人間どもをわざわざ再会させたそうだな」
「そ、そそそそうですッ!!」
「そのうえ本人の口から過去を抉らせ、最後には命乞いさせて奈落へ落とした」
「……」
「【重力牢】であれば難解な術式解読と転移魔法を使えれば脱出はできる」
「あ、そうなんですね」
よかった。
一応皆死んではいないらしい。
「だが簡単ではないぞ。あの空間では上下も距離も曖昧になる。己が永遠に落ち続ける感覚を味わいながら、術式を解読し、冷静に転移座標を組まねばならん」
全然よくなかった。
「生還したとしても、しばらくはこの世の全てが恐ろしくおぞましいものに見えるだろう。特に、最後の最後に見放されたあの男はな」
「み、見ていらしたのですか……」
「ああ」
魔王が愉快そうに笑う。
「精神に重いダメージを与えるとは、肉体を殺すより趣味が悪い。さすがだ、我が腹心よ」
「……光栄です」
(助かった……のか?)
少なくとも最悪の誤解で謎に褒めて頂けたのだから、正体を疑われる流れではなくなっただろう。
我ながらよくやったものだと安堵した。
ところが。
「違います」
後ろから声がした。
デナだ。
「おい」
俺が目だけで止めるより早く、一歩前へ出る。
「エルブルス様は、私を使い潰すために治してくださったのではありません」
六枚の仮面が全部デナへ向いた。
やめて。本当にやめて。
「では、何のためだ?」
「私を必要としてくださったからです」
デナは迷いなく答えた。
「脚を失い、国からも騎士団からも捨てられた私を、この方だけが価値のある存在だと言ってくださった。食事も、睡眠も、治療も、剣もくださった。昨日も私を守るため、人間どもを奈落へ落としてくださった」
いや、本当最後のは事故。
「だから私は、この方のためなら命すら惜しくありません」
「ほう」
魔王が俺を見る。
俺はもう駄目かもしれないと思った。
【あとがき】
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