第2話 「服を脱げ」と言ったら絶望された※診るためです
「この【欠陥品】の値段は金貨一枚でございます」
奴隷商が差し出してきたのは、金貨一枚。
一瞬、聞き間違えたのかと思った。
「……百枚じゃなくて?」
金貨一枚の価値などあまりわからないが、それにしても人一人の命にしては安すぎるような気がする……。
「まさか。両脚を失った奴隷にそこまでの値はつきませんよ。元聖騎士という肩書きはございますが、戦えなければただの穀潰しでございますから」
商人は、値段の理由を説明するように笑った。
「こいつ、元はどんな立場だったんだ?」
「王国聖騎士団の隊長だったそうで。魔族との戦で撤退する仲間を庇い、殿を務めた結果がこの有様です」
商人は、まるで面白い見世物でも語るように続ける。
「帰還後しばらくは騎士団で面倒を見てもらっていたようですが、歩けない女を養い続けても金がかかるだけでしょう? 治療院でも脚は戻せず、家族も引き取りを拒否。最後には借金のかたとして流れてきたわけでございます」
「仲間を逃がして両脚なくしたのに、その仲間に捨てられたのか」
「世の中とはそういうものでしょう。役に立つうちは英雄、役に立たなくなれば荷物でございます」
胸糞悪い話だ。
だが、むしろ先に浮かんだのは、もっと俗っぽい感想だった。
金貨一枚でSS級の元聖騎士が買えるなら、安すぎる。
しかも俺には、大魔導師としての魔力と魔法がある。
エルブルスは確か人体そのものを弄ってグロテスクな魔物に仕立てる変態ということも、説明書かなにかに書いてあった気がする。
人体を弄れる魔法なら、使い方次第では欠損を戻せる可能性だってある。
「買う。買うよ」
「ありがとうございます!」
商人の顔が一気に明るくなった。
しかし、商人の顔とは対照的にデナの顔は、血の気が引いていった。
さっきまで噛みつくようにこちらを睨んでいたのに、今は何かを覚悟したように唇を固く結んでいる。
「いやあ、さすがエルブルス様です。このような壊れた女を好んで買ってくださるのは、王都でもあなただけでございますよ。ちなみに脚はございませんが、腰から上も、それから女として肝心な部分も――」
「その説明、本当に必要?」
「……は?」
「いや、もういい。金は執事から受け取ってくれ」
俺が手を振ると、商人はわずかに首を傾げたものの、すぐに揉み手をしながら引き下がった。
だが、デナだけは違った。
俺を見る目が、露骨に強張っている。
まあ、当然だ。
悪名高い大魔導師に買われたうえ、商人からあんな説明までされれば、これから何をされるのか想像するなという方が無理だろう。
しかも今の俺は、事情を説明しようにも自分がどこまで原作通りに振る舞うべきかすら分かっていない。
急に善人ぶって正体を疑われるのも面倒だ。
「連れていくぞ」
「……好きにしろ」
低い声だった。
怯えているのに、媚びる気は一切ないらしい。
嫌いじゃないな。
*
自室へ戻ると、俺は執事にデナの枷と首輪を外させた。
執事は一瞬だけ妙な顔をした。
「拘束は不要で?」
「逃げられると思うか?」
「いえ、まぁ確かに。両脚がございませんので」
「なら必要ないだろ」
「なるほど。拘束がなくとも逃げられぬ現実を見せつけて絶望を与える、と」
「そういう意味じゃない」
こいつ、何を言っても勝手に悪く解釈してくれるな。
でもまぁ、ある意味助かる。
執事を下がらせると、部屋には俺とデナだけが残った。
ふかふかの絨毯の上に座らされたデナは、自由になった手で自分の身体を抱き、こちらを睨み上げている。
「……何をするつもりだ」
「まず身体を見せてくれ」
「……くっ」
何故か、声が硬い。
「服、脱いで」
その瞬間、デナの表情が止まった。
強がっていた目が、ほんの一瞬だけ揺れる。




