第16話 ご奉仕お願いします
ヴァイスたちを奈落へ落とした日の夜。
俺は、自室の長椅子に身体を沈めながら、ひどく重たい息を吐いた。
「……疲れた」
十数人を奈落へ落とした大魔法は、想像以上に魔力を使うらしかった。
身体は元気なのに、頭の奥だけがじんじん熱を持っている。
「今日はもう寝るか……」
そう呟いた時、扉が三度、控えめに叩かれた。
「エルブルス様。入ってもよろしいでしょうか」
デナだった。
「いいよ」
扉が開く。
そして俺は、少しだけ姿勢を直した。
いつもの騎士服ではない。
湯浴みを済ませたばかりなのか、デナは薄手の桃色のナイトドレスに長い金髪を下ろしている。
首筋には湯上がりの赤みが残り、昼間とはまるで違う柔らかな雰囲気だった。
「どうした?」
「……お礼を言いに来ました」
「お礼ならさっきも聞いたけど」
「何度でも言います」
デナは部屋へ入り、扉を閉めた。
「今日、私を守ってくださったことも。それ以前のことも。脚を返してくださったことも、剣を返してくださったことも、全部……」
「別にいいって……」
デナは俺の前まで来て、両手を胸の前で重ねる。
「私は、あなたから与えられてばかりです」
「護衛してくれてるじゃん」
「それでは、とても……足りません」
「今日なんて、普通に命助けてくれたし」
「それは、エルブルス様ご自身の力で……。それに、このご恩、とてもそれでは足りません」
頑固だな。
デナは一度だけ息を飲み、視線を逸らした。
「ですから……今夜は……、今夜こそ、私に何かさせてください」
「何か?」
「何でも……なんなりと」
やけに静かな声だった。
「……何でも?」
「っはい」
返事は早いが、ナイトドレスの裾を握る指先は明らかに緊張している。
「あなたが、お望みになることなら」
誰のものかわからない心音が、鳴った。
「それが、私の望みです」
二人の吐息の音だけが、静寂の中で響いた。
【あとがき】
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