第14話 【重力牢《グラビティ・アビス》】
俺たちの周囲だけを避けるように、襲撃者全員が地面へ叩きつけられる。
鎧が石床へめり込み、誰一人として指一本動かせない。
壁には亀裂が走り、天井から砂埃が降り注いだ。
「…………」
俺も黙った。
(威力おかしくない?)
たぶんこれが【重力牢】なんだよな?
名前からして重力で相手を拘束する魔法だと思ったんだけど。
まあ、結果的には止まった。
よし。
成功――。
そう思った瞬間だった。
ミシッ、と。
嫌な音がした。
「……ん?」
ヴァイスの指先、そのすぐ横に一本の黒い亀裂が走る。
それが二本、三本と増え、蜘蛛の巣みたいに石床全体へ広がっていった。
「エルブルス様、これは……?」
「俺に聞かれても……」
そして。
床が、抜けた。
いや、石が崩れたんじゃない。
空間そのものが真っ黒に陥没した。
「なっ――!?」
ヴァイスたちの下に、底の見えない巨大な奈落が口を開く。
その奥には星とも炎ともつかない紫色の光が揺らめき、上下の感覚すら狂いそうな闇がどこまでも続いていた。
「う、うわあああああああっ!?」
冒険者の一人が落ちた。
重力を模した黒い手に押さえつけられたまま身体を引きずられ、必死に石床へ爪を立てる。
「助けっ……誰か! 誰かぁぁぁっ!」
指が滑る。
そのまま黒い穴へ吸い込まれ、悲鳴だけが遠ざかっていった。
「お、おい! 待て! こんな魔法聞いてないぞ!」
「解除しろ! エルブルス・バティーノ! 今すぐ解除しろ!」
「いや、俺も解除の仕方が――」
言いかけてやめた。今それ言ったら色々まずいかも。
代わりに黙って腕を組む。
すると、なぜか騎士たちの顔からさらに血の気が引いた。
「ひっ……!」
違うんだ、別に怖がらせようとして黙ってるんじゃない。
本当にどう止めればいいのか分からないだけだ。本当、マジでごめんね。
その間にも奈落は広がっていく。
一人。
また一人。
さっきまで威勢よく叫んでいた連中が、剣も誇りも投げ捨てて床へしがみつく。
「デナ!」
とうとう一人の騎士が叫んだ。
「デナ、助けてくれ! 頼む! 俺たちは仲間だろう!?」
デナは動かなかった。
ただ、静かに男を見下ろしている。
「仲間?」
「あ、ああ! 一緒に戦った仲間じゃないか! 頼む、手を……!」
「私が助けを求めた時」
デナの声は驚くほど穏やかだった。
「あなた方は、その手を差し伸べてくれませんでした」
「それは――!」
男の足元が黒い手に引かれて崩れる。
「待て! いやだ! 死にたくな――」
落ちた。断末魔のような叫び声が奈落の底へ消えていく。
残った連中が青ざめる。
「デ、デナさん……!」
「頼む!」
「俺は貴方を見捨ててない! ヴァイスたちが決めたことに従っただけだ!」
「助けてくれぇっ!」
今度は一斉だった。
救世主として乗り込んできたはずの連中が、救出対象だった女へ泣きながら命乞いしている。
デナはその光景を見ても、剣を収めなかった。
「少なくとも私は、奴隷に落ちたあと、一度もあなた方の姿を見ませんでした」
「ち、違う! 俺は――!」
「さようなら」




