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第12話 救出? 捨てたのはそっちでしょう

 魔王城にけたたましい警鐘が鳴り響いたのは、昼を少し過ぎた頃だった。


 何事かと思って廊下へ出た瞬間、遠くで爆発音がして、廊下の窓や石造りの床がビリビリと震動した。


「人間どもが侵入いたしました!」


 執事が妙に嬉しそうに報告してくる。


「王国騎士団と冒険者の混成部隊、十数名。エルブルス様の討伐と、囚われた人間の救出を叫んでおります」


「救出?」


 俺が首を傾げた横で、デナの表情が冷えた。


「……おそらく、私だ」


 その直後、廊下の先の扉が吹き飛んだ。


「いたぞ! 悪の大魔導師エルブルス・バティーノ!」


 白銀の鎧を着た騎士たちが雪崩れ込んでくる。


 先頭の男は俺を見るなり剣を抜いた。


「デナ! 安心しろ! 我々が助けに来た!」


「……助けに? ヴァイス現聖騎士団長殿が私を……?」


 デナの声が低く落ちた。


 男はその変化に気づかないまま続けた。


「そうだ! 魔族に囚われ、好き勝手に弄ばれていたのだろう! もう大丈夫だ。我々がその悪の大魔導師を討ち、お前を王国へ連れ帰る!」


 随分と立派な救世主面だ。


 デナはしばらく黙っていた。


「ヴァイス。私が両脚を失った時、あなたは何と言ったか覚えていますか?」


「今はそんな話をしている場合ではない!」


「『戦えない聖騎士を養う余裕はない』と」


 ヴァイスの顔が引きつる。


「治療費を打ち切り、宿舎から追い出し、それまでの療養費も全部返せと借金だけを私に背負わせた。最後には奴隷商へ流れた私を、あなた方は一度でも探してくれましたか?」


「そ、それは仕方がなかった! 戦時中だったんだ!」


「そうですね。使えない私は、あなた方にとって不要だった」


「だが今は違う!」


 ヴァイスの目が、デナの両脚へ落ちた。


「脚がある! 剣も握れる! なら戻ってこい! お前ほどの聖騎士なら、また王国のために――」


 デナが笑った。


 ぞっとするほど静かな笑みだった。


「結局、それですか」


「何?」


「あなた方が欲しいのは私ではない。使える私だけですね」


 ヴァイスが苛立ったように剣を握る。


「目を覚ませ! その男は魔王軍でも最悪と噂される大魔導師だ! 洗脳されているだけだ!」


「洗脳?」


 デナが俺を見る。


 その眼差しに宿っているのは恐怖でも依存でもなかった。


 信仰に近いほど真っ直ぐな敬意だった。


「この方は、誰もが私を欠陥品と呼んだ時、最初に『どこが欠陥品なんだ』と言ってくださった。私を決して欠陥品として扱わなかった」


 俺はただステータス見て驚いてただけなんだけどさ。


「脚を返してくださった。剣を返してくださった。温かい食事を与え、柔らかい寝床で眠れと言い、また役に立てなくなっても捨てないと言ってくださった」


 デナは龍血銀の剣を抜いた。


「私を救ったのは、あなた方ではない」


 黒剣の切っ先が、元仲間へ向く。


「エルブルス様です」


「馬鹿な……! 悪の魔導師ごときをまるで救世主のように崇めるなど!」


「救世主?」


 デナの目が細くなる。



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