第11話 「昨日は腰触っただけで真っ赤だったのに」
「……は?」
「右へ切り返す時も骨盤が先に不安定になってる。あと三人目に入った時、左膝が一瞬内側へ入っただろ」
周囲がまた静かになった。
デナまでぽかんとしている。
「今のを見ていたのか?」
「戦いぶりを見るために来たんだからさ……」
俺が知りたいのは、再生した脚を実戦速度で使った時にどこへ負担がかかるかだ。
「もう一回。今度は五人」
「増えるのか!?」
「疲労した時の崩れ方も見たい」
「貴様、本当に容赦ないな!」
文句を言いながら、デナは笑っていた。
*
結果から言えば、五人に増やしても同じだった。
デナは全員を大怪我させず地面へ転がした。
しかし、俺の目には、まだ問題が見えた。
左脚へ荷重した時の負担のかけ方。
古傷のせいでわずかに縮んだ腰の筋肉。
昔の肩の損傷を庇う癖。
「ステータスオープン」
【剣術:SS】
【聖属性適性:SS】
【身体状態:回復度 72%】
【古傷:右肩/腰部/左肋骨】
【両脚:適応中】
「やっぱ七割くらいか」
「なな……」
デナの顔が引きつった。
「今ので七割!?」
「うん」
「私は全盛期でも、ここまで楽に中級魔族を五体同時には倒せなかったぞ!」
「じゃあ脚を作り直した時、前より状態よくなったのかも」
「軽く言うな!」
周囲の魔族たちまでざわめき始める。
「七割……?」
「あれで?」
「完全に戻ったらどうなるんだ……」
「デナ、剣置いて。古傷も治そう」
「まだ治せるのか?」
「むしろ何で残すの?」
右肩へ手を添える。
魔力を流すと、古く癒着した組織が手に取るように分かった。
腰も同じだ。
治癒の過程で硬くなった組織が動きを邪魔している。
「少し熱いぞ」
「もう驚かない。好きにしろ」
「昨日は腰触っただけで真っ赤だったのに」
「今それを言うな!」
周囲から妙な視線が集まった。
「……エルブルス様、腰を?」
「お前らは黙ってろ」
【再構築】で古傷を正常な組織へ戻していく。
肩から腰にかけて。
さらに肋骨周辺。
最後に左脚の神経伝達を微調整する。
「よし。軽く振ってみて」
デナが剣を握る。
一度、横薙ぎ。
空気が破裂した。
離れた場所に置かれていた訓練用の人形が、触れてもいないのに真っ二つになった。
「…………」
俺も黙った。
周囲はもっと黙った。
デナ本人まで、自分の剣を見つめている。
「……全盛期より、身体が動く」
「よかったじゃん」
「よかったじゃん、ではない!」
振り向いたデナは、怒っているのか笑っているのか分からない顔をしていた。
その向こうでは、さっきまで彼女を欠陥品と笑っていた魔族たちが、誰一人として目を合わせようとしなくなっていた。
俺は改めて【ステータスオープン】を開く。
【身体状態:回復度 100%】
【剣術:SS】
【潜在能力:SSS】
【戦闘適性:上昇】
金貨一枚。
やっぱり、とんでもなくお買い得だったらしい。
そう思っていると、デナが剣を胸の前へ立て、俺の前で静かに片膝をついた。
「エルブルス・バティーノ。改めて誓う」
訓練場中の視線が集まる。
「この剣も、この命も、あなたのために使う。今度こそ私は、私を必要としてくれた者を守る」
……いや。
命までは頼んでないんだけど。
けれどその目があまりに真っ直ぐだったので、今は訂正しない方がいい気がした。
そして俺は、この時まだ気づいていなかった。
デナの忠誠心が、俺の想像よりずっと重い方向へ育ち始めていたことに。




