第10話 欠陥品扱いされた元聖騎士、魔王軍を黙らせる
デナに剣を渡してからしばらくして、俺は彼女を魔王城の訓練場へ連れていった。
しかし、歩けるようになったからといって、いきなり実戦へ放り込むつもりではない。
「今日は身体がどこまで戻っているか見るだけだ。無理はするなよ」
「昨日からそればかりだな。私は子供ではないぞ」
「勝手に立とうとして十分で転びかけた奴が言うな」
「……あれは忘れろ」
耳を赤くして睨んでくる。
訓練場にはすでに魔族の兵士たちが集まっていた。
牛頭の巨漢、四本腕の剣士、全身を甲殻に覆われた魔族が、珍しい見世物でも見るように集まっている。
「おい、あれが噂の欠陥品か?」
「脚が生えてるぞ。エルブルス様が弄ったのか?」
「人間なんぞ治したところで何になる」
デナの表情が硬くなったので、俺は倉庫から持ち出してきた黒い長剣を差し出した。
「これ使って」
「……待て」
受け取ったデナの顔色が変わる。
「これは魔鉄に竜血銀を混ぜた剣だぞ。人間の国なら国宝扱いされてもおかしくない」
「そうなの?」
「知らずに持ってきたのか!?」
「なんか倉庫にいっぱいあったから」
エルブルス、いいもんもってんな。
デナは呆れながらも、柄を握った途端に雰囲気が変わった。
背筋が伸び、足幅が変わる。
剣先がぴたりと止まった。
一瞬で聖騎士の顔つきになった。
「相手は?」
「まず三人くらいでいいんじゃない?」
俺がそう言うと、周囲から笑い声が上がった。
「三人? 人間一匹に?」
「エルブルス様、壊して遊ぶおつもりですか?」
「手加減した方がよろしいでしょうな!」
舐めてかかってくる魔族たちにデナは苛立った様子だった。
「……殺していいか?」
「駄目」
「では骨を折る程度なら?」
「患者が治療者の前で他の怪我人増やすなよ」
「しかし! 許せん!」
「ちょっとちょっと、身体の様子見るだけなんだから手加減してよ、お互い」
三体の中級魔族が前へ出た。
牛頭の巨漢が大斧を構え、四本腕の男が四本の曲剣を抜き、甲殻の魔族が地面を蹴る。
「始め!」
開始の合図が響く。
デナが消えた。
「は?」
いや、消えたように見えただけだ。
一歩目が異様に速い。
甲殻の魔族が拳を振り抜くより早く、その懐へ潜り込み、黒剣の腹で脇腹を叩く。
鈍い音。
巨体が横へ吹っ飛んだ。
続けて大斧が振り下ろされる。
デナは半歩だけ外へずれ、斧を紙一重でかわすと、柄頭で牛頭の顎を跳ね上げた。
「ぐっ……!」
残った四本腕が左右から剣を浴びせる。
四本。
普通なら捌き切れない。
デナは一歩踏み込み、相手が振り切る前の間合いへ入った。
「遅い」
剣閃が一度。
四本の曲剣がまとめて宙を舞った。
訓練場が静まり返った。
「……終わりか?」
デナが剣を肩へ担ぐ。
さっきまで笑っていた魔族たちの笑みが消えた。
「嘘だろ……」
「あれが欠陥品?」
「三体だぞ……中級兵を三体まとめて……」
分かりやすいな。
でも俺としては、別の部分が気になった。
「デナ」
「何だ。少しは見直したか?」
俺は少し考えて答えた。
「……左の踏み込み、まだ本領じゃなさそうだな」




