第二話「ハレーの予言」
賢者ハレーは虹の同盟の結成にも携わったと言う。つまりは同盟の為に発足したギルドの初代マスターという立場。ハレーの予言には、これがある。
『いつか空席になるであろう我の座。埋めるべからず。全ては虹の輝きの導きに従うべき』
『虹、選びし超越者。黄昏の者と共に現れる』
ミッシェルたち賢人たちはこの言葉を互いに推理した。思い当たる名の知れた人々を調べているうちにミッシェルの情報網に掛かったのがルーチェの名前だったらしい。黄昏の者、それが何を示すのか誰も納得できずにいたがキースの存在を知ってから恐らくこれは非常に稀少な種族であるダンピーラの事だろうと考えた。人が昼の眷属と言い換えられるなら、夜の眷属は吸血鬼という存在である。黄昏とはいわゆる夕方の事。昼と夜の境目、混血と言い換えれば筋が通る。
「それに言うじゃない?環境が大事って。失敗しても誰も何も言わないわ。こっちは頼んだ側で、貴方はそれを快く引き受けてくれた」
賢者ハレーの予言集は既に焼却されており、資料は何も残っていない。世界にとって重大な予言が多数存在したともされている。ハレーの教えを受けた選ばれし賢人たちはハレーの予言も継いでいる。ミッシェルを含めた複数のギルドの賢人たちもそれについて知っている。人に恵まれていたのかもしれない。何故なら未だに予言に関する話は一切外部へ漏れていない。それにこのギルドは権力者に媚びへつらう為に生まれた組織では無い。ミッシェルは立場上、共和国の名家の令嬢という事でギルドの組織方針に背く事になってしまう。
「分かった。引き受けるけど、しっかりサポートしてよね?」
急にやって来た人間が突然組織のリーダーとなる。元から属していた者たちがすぐに受け入れる事は出来ないだろう。となれば質問攻めや不平不満も考えられる。言われるがままにリーダーの座に就いたなんて理由で貫き通す訳にも行かない。スカウトしたミッシェルが答えてくれなければルーチェはどうすることも出来ない。それも全部承知の上でミッシェルは彼女にギルドマスターとなって欲しいと頼んだのだ。ミッシェルはこうも話がトントン拍子で進んでいくのに一切口を挟まないキースの態度が不思議でたまらない。それはやり過ぎだ、早すぎる、時期尚早であると言い出すかと思った。その視線を感じてキースはフッと笑った。
「どうして何も言わないんだって顔をしているな」
「あら、ごめんなさい。顔に出てたのね」
その顔は本気でそう思っていた顔だ。
「俺が口を挟む話では無いだろ。どうするかはルーチェが決めれば良い。彼女が選んだのなら、俺もそれを支えるだけだ」
多くを語らないキースから語られたのは彼の本心だ。キースの言葉に長らく共に生活しているルーチェもあんぐり口を開けたまま呆然としていた。彼の事を馬鹿にしているわけでは無いが、自分の選択を応援する姿勢を知って驚きを隠せないでいた。何とも言えない空気の流れを察してキースも自分の発言が自分で恥ずかしくなったのか誤魔化すように一つ咳払いをして話題をすり替えた。
「ミッシェル、他の面子は既にこのことは知っているのか?それだけでなく、ギルド自体は各地の有力者たちとの繋がりもあるだろう」
「まぁね。ギルドの賢人はある程度話してあるし、理解も出来てる。問題なのはギルドと繋がりのある有力者の方かしら。最近はどうにも各地の情勢が怪しい」
ミッシェルは徐に二つのイヤーカフを取り出した。金と銀を素材として作られた蝶の羽を模したものだ。これはギルドに属する賢人が作り出した通信機器である。ミッシェルや他の面子と比べると少しばかり豪奢なデザインなのは創作した者たちがルーチェの話を聞いて、どうにも張り切ってしまったらしい。
「困ったものだわ。もっとお洒落に!もっと可愛く!…って、性能そっちのけでデザインばかりに拘るものだから。嫌なら外しても構わないわ。私からキッチリと伝えておくから」
「まさか。ちょっと付け方が分からなかっただけ」
キースのやり方を確認しながら、ルーチェは自分の長い髪を耳に掛けた後、自身の右耳に貰ったイヤーカフを身に着けた。イヤーカフに掛かってしまう髪をヘアピンで上手い事まとめて留めた。ルーチェは右耳に、キースは左耳に。利き手の影響もあるが、意識せず二人の在り方を示唆しているかのようだ。互いに何も考えずにしたことであると傍から見ていたミッシェルは良く分かっている。二人のやり取りを見ながら、ミッシェルはほんの少しだけ表情を和らげた。
「早速、行ってきて欲しい場所がある。共和国と同盟を結ぶ周辺都市国家群が一つ、海の都市スクーンラム。私たちギルドの賢人は各地に散って、現地を調査している。各地でも異変が起こっているとの報告が挙がっていて、賢人たちは駆け回っている。ここから一番近いのはスクーンラム、私も行くから門前払いされることは無いと思うわ」
エレフセリア共和国を中心として複数の都市国家群で成り立つ虹の同盟。その一角を担う海を擁する都市国家スクーンラム、その国が抱える問題は海である。海の底に胎動する者、滅する事は出来ず封印するにとどまった。そう言った存在はニビルには複数いる。抱える問題は人外のみならず、政治にも存在する。抱える問題は国によって千差万別。そして裏で暗躍する者たちがついに表舞台に姿を現す。




