第一話「新たな青い星」
崩壊と創世に携わったとされている賢者ハレーが残した古書は今も研究が進められている。この世界をニビルと名付けたのは人では無く、人の手ではどうすることも出来ない巨大な秩序そのものである神である。但し、我々は崩壊以前ニビルが何と呼ばれていたのか知らないがどのような星だったのか知っている。ニビルと名付けられ、この星には人間以外の種族も反映するようになったと言う。かつての人間たちの中で空想上の生物として扱われた存在が実在するようになり、魔法が発現し、新たな文明が急速に発展していった。ハレーが残した数々の古書の中で外典にだけ載せられた存在がいる。超越者と呼ばれる者、彼らは虹の向こうからやって来た人物であるとされている。詳細は分からない。外典で使用される文法や文字は未だに全てを解明することが出来ていないのだから。エレフセリア共和国、賢者が興した自由と調和の国として名が広まっている。平和を維持しようと掲げ続ける虹の同盟を最初に掲げた先駆者的存在。その首都に居を構えるしがない民間探偵ルーチェ・ファリス。彼女のもとに足を運んだのは共和国の名家に連なる家の令嬢だった。レインウォーター家、賢者ハレーの弟子の一人を先祖に持つ家だ。その次女であるミッシェル・レインウォーターは組織の副官として長らく空席となっているギルドマスターの代わりをしている。
「そんな人がどうして私に」
腰まで伸びる長い藍色の髪とピンクとシルバーのオッドアイ、ルーチェの特徴だ。見間違えることも無いだろう。対してミッシェルはルーチェよりは短いが胸元あたりまであるオリーブアッシュの髪。柔らかく波打っている。国でも有数の美女と言っても過言ではない美しさを秘めた女性だと思う。共和国のみならず虹の同盟の結束に加わる国と言う形に捕らわれない無銘のギルド、便宜上はネームレスとなっている。賢者ハレーの正しき教えを学びし賢人が一人によって設立された。
「怖い顔をしないでくれるかしら。貴方の事も巷では有名よ、名探偵の名助手さん」
突如として押しかけて来たネームレスの賢人ミッシェル・レインウォーターに対して警戒を抱く人物。ミッシェルが目的としていたルーチェ本人よりも相手を強く警戒している。ミッシェルは荒事は専門外だが彼の実力の高さは既に世間に知れ渡っている。
「キース、大丈夫。大丈夫だから、一旦話を聞こうよ」
「ありがとう。でも構わないわ。ルーチェ…って呼んで良いかしら。貴方の助手、本当に素敵ね」
ルーチェに促され、キース・プリムローズは肩の力を抜いて彼女の隣に座った。ミッシェルは何故ルーチェに声を掛けて来たのか。それはつい最近、ルーチェが事務所の片づけをしている最中に見つけた物から発せられた特殊なエーテルを察知したからだ。ルーチェが自分の右手を出した。中指に一つの指輪がはめられていた。自分の事かと気付いて主張するように淡い虹色の輝きが放たれる。
「少し前に流星群があったのを覚えてる?」
「勿論。あら、もしかしてその時に…」
子どものような話だ。だがルーチェは確かに一筋の流れ星が近所に落ちたのが見えた。気になって仕方なくなって、キースと共に落ちたであろう場所に向かった。事務所から徒歩圏内にある場所、広場の噴水の底からルーチェはその特殊な瞳で小さな虹の光を目にしたのだ。そこに興味本位でルーチェは手を突っ込んだ時、気付いたら彼女は事務所のベッドで寝ていた。
「?貴方、近くにいたのでしょう?」
「強い光のエーテル。もしかしたら調べがついているかもしれないが、俺は普通の人間では無い。その血の影響が強く、人間にとっては何の苦にもならない光のエーテルでも影響が出る。人間にとって好ましい量の光のエーテルも俺にとっては、そうだな…水の無い砂漠へ放り出されたような感覚だ」
お年頃なルーチェよりも白い肌に映える赤い瞳、ぱっと見は美青年だが実年齢は青年の域を余裕で超えている。彼には吸血鬼の血が流れており、彼はその血が非常に濃い。ポーカーフェイスで上手い事弱点を覆い隠している。キース・プリムローズ、種族はダンピーラ。彼は当時ルーチェの救出をするつもりで即座に動けたはずだが放出された光のエーテルに怯んでしまい救出が遅くなってしまった。噴水の水面に沈むルーチェを引っ張り上げた時、すでに彼女の指には指輪があったという。
「綺麗だけど、外せないのが不便なんだよね…」
ぐぬぬ…と力むルーチェ。中指から外れる事は無いらしい。ミッシェルも実物を見ただけでは特に何も分からない。本当なら指から外して観察するべきだが彼女の指から外れないのなら、どうすることも出来ない。
「ネームレスっていう組織にスカウト、だよね。私たちは全然承諾するつもりでいるよ」
「なら、少し良いかな。ルーチェ・ファリス、君に是非ともネームレスのギルドマスターを頼みたい」
世界の探索を掲げるネームレスと言う組織。結成されたのはかつてはいがみ合っていた国々の架け橋となって虹の同盟を結ばせるため。
「…お前がトップでは無いのか?」
「私は永遠のナンバーツーよ。引き継ぎ開始前にトップが行方不明、失踪。その次の地位にいた人間も不治の病に倒れて何もかもが有耶無耶。火災も起こって、こっちはてんやわんやしてたのよ。時事ニュースに貴方は詳しいのでは無くて?」
正式な遺書や言葉も残っておらず、トップの席に空白が出来てしまった。ミッシェルが正式に自分が継ぐと明言すれば終わる話だが彼女は自分はトップなんて似合わない、副官で充分と言い張る始末。事が進まない。辛うじて組織は動いているらしいが、体裁が良く無いだろうと組織統制に長けた自分の姉の言葉を受けて自分が…とはならなかったらしい。
「良いけど、もうちっと詳しく聞いても?」
無論、頼まれれば引き受けても構わないが果たしてミッシェルや他の面子は良いのだろうか…。




