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第4話 暗黒騎士

「私の名はエレアノール。レガリア王国筆頭魔術師にして、貴様らを灰にする者よ」


 エレアノールと名乗った少女はそう告げるや否や、俺たちの頭上から更に天高く上空に飛翔した。


 遥か空の彼方に到達したエレアノールは、手にしていた指揮棒のような杖を掲げると、杖に魔力を集中させ始めた。


 杖の先端に埋め込まれた紅玉がそれに呼応するように輝きを増していき、凝縮された炎のような眩い光を放っている。


 エレアノールはオーケストラの指揮者のように杖を振るった。


 夜空に紅い軌跡が描かれ、一瞬にしてエレアノールの背後に無数の魔法陣が出現する。

 

 そこから数百は下らない拳大の火球が溢れ出した。

 無数の火球が俺たち目がけ、一斉に襲いかかる。


「【ファイアボール・シンフォニア】!」


 ドドドドドドドドドド!!!!!!!


 火球は轟音を響かせながら大地を吹き飛ばしていき、閃光が闇夜を白く塗り潰して真昼のように煌々と照らし出す。


 だが、その中にあっても俺たちは無傷だった。


 ヴィオラの【暗黒障壁(ヴォイド・ウォール)】は俺たちに降り注ぐ火球を片端から闇の中に飲み込み、かき消している。


「マコト様、決して私の背後から離れませぬように……!」


 周囲を爆炎と轟音に晒されながらも、ヴィオラの声は冷静だった。

 片手に大剣を構え、もう片方の手で障壁を展開し、俺を庇いながら頭上のエレアノールを見据えている。


「やはり不可解ね……」


 上空から、エレアノールの怪訝そうな呟きが微かに聞こえてくる。


「私の魔法が効かない? いや違う。あの黒い障壁が私の炎を《《吸収》》している……?」


 夜空に浮かぶエレアノールの真紅の瞳は、未知の玩具を見つけた無邪気な少女のように、怪しく輝いているように見えた。


「あの魔力体系は何? 文献ですら見たことがないわ……面白い、面白いじゃないの!」


 エレアノールの杖が再び紅く輝いた。


 天空に、空を埋め尽くすほど巨大な魔法陣が五つ出現し、そこから極太の火柱が五本同時に降り注いだ。


「これは受け切れるかしら? 【フレイムストライク・クインテット】!」


 ドオオオオン!!!!!


 火柱が着弾した衝撃で大地が抉れ、爆風が吹き荒れる。

 ヴィオラの障壁がなければ、その余波だけで俺の身体は遥か彼方に吹き飛んでいただろう。


 次々に繰り出されるエレアノールの怒涛の猛攻を、ヴィオラは全て防ぎきっていた。


 だが――反撃できない。


 俺は歯を食いしばりながら現状を分析する。


 エレアノールは遥か空の上、ヴィオラの大剣は届かない。

 かといって障壁を解いて飛び出せば、地上に残された俺は炎に飲み込まれ灰になるだろう。

 更に、ヴィオラは自身の魔力を俺の生命維持にも割いている。

 

 ヴィオラはいわば、片腕を俺に縛られた圧倒的不利な状態で戦っているのだ。

 このままでは打つ手が無い。

 

 俺の目には、エレアノールがヴィオラよりも巨大な魔力のオーラを纏っているのが見えている。


 このままエレアノールに上空から魔法を打ち続けられれば、先に魔力が尽きて敗北するのは俺たちの方だ。


 俺が足手まといになっている――

 なら、答えは一つだ。


「ヴィオラ!」


「はい、マコト様……!」


「一時的に俺との魔力接続を切れ! お前の全力であいつを叩くんだ!」


 途端に、ヴィオラの身体が凍りついたかのように固まった。

 後ろを振り向いて俺と視線を合わせたヴィオラの顔は、血の気が引いたように青ざめている。


「マコト様、それだけはお許しください……ッ! 接続を絶てば、マコト様のお身体が……! お命に関わります!」


「だが、このままだと二人とも死ぬ。違うか?」


「…………ッ!」


 ヴィオラが唇を噛み締める。

 その沈黙が答えだった。


 頭上ではエレアノールが杖を掲げ、次の魔法を発動しようとしている。

 もはや猶予はない。


「一か八か、お前の全力に賭ける!」


「ですが……!」


「ヴィオラ」


 俺は恐怖と不安に揺れるヴィオラの瞳をまっすぐに見つめながら、彼女の主として、言葉を告げた。


「これは()()だ」


「!!」


 ヴィオラが大きく目を見開いた。

 そしてギュッと目をつぶり、歯を食いしばりながら天を仰ぐ。


 だが、それは一瞬だった。

 決意と覚悟を宿した紫紺の瞳が、再び俺を見つめ返した。


「かしこまりました、マコト様――」


 ヴィオラは静かに返答した。


 直後。


 俺の全身に極寒の冷気が走った。


「ガッ……! アッ……!!」


 死の間際の、何もかもを奪われ、暗黒の底に放り出されたような感覚が俺を襲う。


 体内を循環していたヴィオラの魔力が引き剥がされ、身体から命の熱が失われていく。


 今まで俺を動かしていた魔力が、熱が、ヴィオラの暖かな闇が、消えていく。


 俺は膝から崩れ落ち、地面に倒れ込んだ。

 全身の感覚が無い。視界が霞む。息が苦しい。


 だが、その代償と引き換えに、俺の目の前では信じられない現象が起きていた。


 ヴィオラの体に、漆黒の闇の流動体が纏わりついていく。

 闇はヴィオラの全身を覆い尽くすと、その形を鎧のように変化させ、黒い金属質の光沢を纏った。


 禍々しい兜の面頬が閉じた瞬間、ヴィオラの全身が漆黒の全身鎧(フルプレートアーマー) に包まれた。

 兜のスリットから溢れ出た紫の眼光が闇夜に揺らめいている。


 その姿はまさに暗黒騎士。

 闇から鋳造された殺戮の凶器が、人の形で屹立していた。


 瞬間、ヴィオラのオーラが爆発した。


 夜空を塗り潰すかのような暗黒の奔流が天を突き、全てを闇に飲み込んでいく。


 静まり返った夜の荒野に、ヴィオラの声だけが冷徹に響いた。


「一瞬で終わらせます――」


 ◇


 ヴィオラの変貌を目の当たりにしたエレアノールの表情が変化した。

 傲慢さに満ちたその顔から、余裕の色が剥がれ落ちている。


 だが、それも一瞬。

 次の瞬間、エレアノールは口角を吊り上げて不気味な笑みを浮かべた。


「ああ……ああッ! これよ……!」


 その目は、常人では理解の及ばぬ何かを宿していた。

 純粋で、だからこそ手のつけられない、狂気の瞳だ。


「こういうのを待っていたのよ!!!」


 エレアノールは一切の躊躇いなく、杖を天に掲げた。

 杖の紅玉に全魔力が集束していくのが見える。


 杖の先に巨大な火球が出現した。

 杖を通して火球に更に魔力が注がれ続け、密度と大きさを増していく。


 やがて、杖の先端に凝縮された火球は白い光となり、もはや炎ですらなくなった。


 それはまるで、地上に顕現した太陽そのものだ。


「喰らいなさい!!!」


 エレアノールが杖を振り下ろす。

 白い太陽が、俺たち目がけて解き放たれた。


「【パイロブラスト】ッ!!!!!」


 エレアノールが放った《《それ》》は、今までの火球とは比較にならなかった。


 巨大すぎて距離感が狂う。

 

 まだ着弾すらしていないのに、大気が燃えている。


 眩しすぎてまともに目を開けていられない。


 これが直撃すれば、俺たちはおろか、この一帯ごと跡形もなく消滅するだろう。


 ――だが


 漆黒の鎧に身を包んだヴィオラは、一切動揺していない。


 ヴィオラは大地を蹴り、天高く飛び立った。

 踏み込みの衝撃で地面が陥没し、放射状に地割れが走る。


 太陽を真正面に見据えたヴィオラは、大剣を両手で握りしめ、空中で全身を大きく振りかぶった。

 大剣にヴィオラの全魔力が凝縮されていく。


 刀身が放つ暗黒のオーラが、太陽の光すら飲み込んだ。


「【黒蝕の絶刃エクリプス・ヴァニッシュメント】!!!!!」


 絶叫と共に、ヴィオラが大剣を振り下ろした。


 ズドオオオン!!!!!


 一閃。


 白い太陽が、漆黒の斬撃で真っ二つに裂けた。


 両断された太陽は、まるで最初からこの世界に存在していなかったかのように、跡形もなく消滅した。

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